講師インタビューtrainer

育成とは”教えないこと”|相手に「正対」する人材育成 Vol.2

研修の最前線で活躍する講師へのインタビューを通じて、人材育成について考えるシリーズ。

階層別マネジメント、プロジェクトマネジメント、技術部門のリーダー育成等のテーマで活躍する関根利和講師が、技術部門にとっての”組織マネジメントの重要性”と”人材育成の意味”について語ります。

「指導」と「育成」の違い…育成とは“教えないこと”?

―研修というものが人材育成にどんな効果をもたらすのか具体的に説明してほしいとお客様から求められることは多くあります。

(関根)
研修はあくまでいくつかある手段の1つに過ぎません。「指導」という言葉と「育成」という言葉がありますよね。私個人の定義になりますが、「指導」は「こうやりなさい」と教えることです。 マニュアルや標準作業、(成果を生む行動特性を指す)コンピテンシーなどが、こちらに含まれるテーマだと思っています。しかし、「育成」は、極論を言うと“教えてはいけない”のです。

―“任せる”とか“見守る”といった方向ですね。

(関根)
子どもがいるとよく分かりますよね。違う言葉でいうと、(禅の)『冷暖自知』ですか。
熱いも冷たいも自分で体験すればおのずと理解できるといった意味です。
子どもがハイハイしているとき、落ちても大丈夫な小さな段差なら、落ちてみた方が危険がわかるようになるのです。マンションの上階でそれをやられたら、大変なことになってしまうので、途中で手を出してしまい「この辺でやめろ」といってしまいます。でもそうやっていつも手を出してしまうと、本人がわかる・育つ機会は失われます。見守る側の人間としての度量が問題になってきます

―“待つ”という要素も大きいですね。

(関根)
そうです。“任せる”も同じことだと思います。“任せる”というと当たり前で普通だと考える人もいますが、それは違います。これは相当高い人間教育になります。手を出さず、失敗もさせないといけませんから、時間がかかります。痛いこともケンカもさせます。ケンカのときはどこで止めなければいけないか本人が思い知ることが大事になってきます。見守り、待つということは、相当にレベルの高いことなのです。

“任せる”とは環境を整えることであると同時に、仕事を与えるということでもあるのです。仕事を与えるということを、管理職の皆さんはどう考えているのでしょうか。

「指導」の大切なポイント

―動きとしてわかりやすい“指導・教える”の方に重きを置いている人も多いように思います。

(関根)
“指導・教える”についてもポイントがあると考えています。大手日用品の企業では、店舗の行動が洗練されたマニュアルになっていて、行動指針が書いてあると言います。だから、“教える”とは行動提起なのだそうです。

職場を良い状態にするために難しいのは、全部“教える”わけではないことです。
仕事を成功させるために、抽出したポイントをどう規定するかが問題になってきます。
計画のスケジュールやマイルストーンも同じ話ではないですかね。
私はこれをかみ砕いて“コツ”と呼んでいます。例えば「企画書をうまく書くときのコツを教えてほしい」といわれた時に 、“コツ”を見極めていない人が、“指導”などできるはずもありません。

―より短い時間で、自分が担当する仕事を覚えることが求められている時代です。
だから、“指導”もとても重要になりますね。

体験させ、見守ることはなぜ大切か?

(関根)
再び、「指導」から「育成」の話に戻ります。私は最近になって「任せる」ということを、特に語らなければならないと思い研修の中で意識して話すようになりました。そうすると、その部分に着目して受講レポートを書いてくる参加者が増えたのです。

―どんな感想が寄せられましたか。

(関根)
「人を育てるという立場の本当の役割や難しさが分かった」とかですね。
先ほどお話した親が子どもを段差から落とすか、落とさないか、どこまで見守ればいいのか、そんなことを、仕事で言えば部下1人ひとりに向かってやっていかなければなりません。対人関係としてその部下と「正対する」必要が絶対に出てきます。

苦手な部下であってもきちんと向き合わなければならなくなります。
心がすごく鍛えられることです。私は「人材育成とはそのことではないか」といいたいのです。「苦手な人に対してもできますか」と聞きたいわけです。JMAも人材育成を語るのなら、「自分たちも本気でやる覚悟がある」と言わなければいけない気がします。

研修にマネジャーの人が集まったら「人を大事にし、人が人生で良い生き方をできるようにすることが良くないですか」、「企業は人が育つ場だと考えたほうが良くないですか」というようにしています。

業績も要求されるので、仲良しクラブになることは許されず、個人のレベルを上げることも求められるわけです。皆が一生懸命に育つ場であり、業績も問われる場でもある中で、どう人を育てるかを考えるのが企業でありそのマネジャーだと思います。あらためて企業って良い場だなと思い始めているところです。

~つづく(2/5)~

◆関根 利和(せきね としかず)プロフィール◆

1954年生まれ。1977年埼玉大学理工学部 卒業
外資系自動車部品メーカー勤務を経て現職。数多くの企業において、人材育成、目標管理制度、業務分析、プロジェクト支援、ネットワークの構築・運用管理等のコンサルティングを手掛ける。特に人材育成では、経営幹部から管理職、中堅層まで幅広く対象としている。豊かな経験を踏まえた実践的で明快な指導には定評がある。”難しい話をわかりやすく”がモットー。