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こから着手!人事でできるSDGs

公開日:2022/02/25 更新日:2023/09/13

SDGsへの着手を求められているものの、通常業務に忙しく、なかなか着手できないと悩む人事担当も多いでしょう。しかし、すでに取り組んでいる業務が、すでにSDGsへの取り組みになっている場合もあります。
今回は人事と関わりの深いSDGsの目標と施策例をご紹介します。

SDGS

知らないでは済まされない!SDGsの意味

SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。20159月の国連総会で加盟国193ヵ国が合意した「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ」内で掲げられている、世界共通の取り組み目標です。

その目標は、一部の人々を犠牲にした経済発展や、自然を破壊する開発など、持続不可能な現代社会の課題にアプローチするもので17項目にのぼります。具体的には「貧困をなくそう」「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤をつくろう」「気候変動に具体的な対策を」など。さらに目標ごとに、169の具体的な施策のターゲットが示されています。

このように目標は多岐にわたりますが、基本的には「経済・社会・環境」の3要素から成り立っていて、人間(People)・繁栄(Prosperity)・平和(Peace)・パートナーシップ(Partnership)・地球(Planet)の5グルーブに関連づけられます。17の目標は、相互に関連し合い、依存していて、一つの目標に取り組むと、実はほかの目標にも良い影響を与えるように設定されています。これが“統合的な解決”を目指そうとするSDGsの特徴です。

SDGsは条約のように加盟国を法的に縛るものではありません。したがって国際機関や政府、非営利団体、民間企業、ステークホルダー、国民が互いに連携や協力をしながら、目標を達成させる行動が求められています。日本でもSDGsの採択後は、外務省を始めとする各省庁が動きました。それに続いて経団連も2017年、『企業行動憲章』に「持続可能な社会の実現を牽引する役割を担う」と明記し、SDGsを前面に押し出したかたちで改定しました。

企業が取り組む目的

SDGsが掲げられてから7年、達成期限の2030年まで8年を切りました。「日本の人事部 人事白書2021」によると、約3%の企業がSDGsに着手しており、5,000人以上の企業では約85%が取り組んでいます。多くの企業がSDGsに取り組む目的は何かを見てみましょう。

目的1:経営リスクを回避するため

SDGsへの取り組みは、企業価値の向上とともに、企業の不適切行為や情報開示の不正を避けることになります。結果として経営リスクの軽減や回避になり、ステークホルダーと良好な関係が築けます。

目的2:ステークホルダーの支持を得るため

SDGsは世界共通の目標でありアジェンダです。その取り組みの有無が、取引条件や企業評価の指標に使用される可能性があります。企業が積極的に取り組むことで、ステークホルダーから支持を得ることができます。

目的3:新たなビジネスチャンスを創出するため

社内外でのSDGs関連ビジネスを創出したり、新規事業機会の創出、取引先の新規開拓など、今までになかったビジネスチャンスが期待できます。

目的4 協働の機会を実現し、新しい価値を創るため

SDGsを共通言語にして目標に取り組めば、幅広いステークホルダーと協働の機会が実現できます。それは、企業にとって新しい価値を創ることを意味します。

目的5:競争で優位に立つため

SDGsの視点で事業を展開すれば、自社の付加価値や能力などの優位性が明確になります。結果として競合他社との競争で優位に立つことができます。

人事が取り組むことで得られるメリット

次に、人事がSDGsに取り組むことで得られるメリットをご紹介します。

メリット1:企業ブランドが向上する

SDGsに取り組む姿勢やSDGsにつながる製品・サービスの創出は、ステークホルダーに良いイメージを与え、企業ブランドを向上させます。

メリット2:採用力が高まる

企業ブランドが向上すれば、採用活動に大きなメリットをもたらします。国際的な課題に取り組んでいるということで優秀な人材や、若い人材の関心をひきやすくなるからです。

メリット3:従業員のモチベーションが高まる

SDGsを達成するために、従業員が自分たちで出来ることを話し合い、新たな価値を創出する可能性が出てきます。そうしたことで仕事へのモチベーションが高まり、従業員同士の一体感も生まれやすくなるでしょう。

17の目標のうち、人事と関係の深い項目と、具体的な取り組み案

人事の業務と特に関係の深い目標は、人間、平和、パートナーシップのグループに属する3.5.8.10番です。ここでは各目標の具体的な施策案をご紹介します。共通するのは従業員の基本的人権の尊重と、多様な人材の活躍に向けた労働環境の整備です。

目標3番「すべての人に健康と福祉を」

目標3番「すべての人に健康と福祉を」のなかには、非感染疾患対策が据えられています(※)。それは新型コロナウィルス感染症が流行する前から、先進国・途上国関係なく、肥満、糖尿病、高血圧、がんなどの非感染疾患の増大が問題になっていたためです。

非感染症疾患の予防のカギとなるのは食事と運動です。1日の大半を労働に費やす従業員の健康を守ることは、そのまま目標3番の取り組みにつながります。具体的には「健康経営」の取り組みを推進するとよいでしょう。健康経営とは、経営戦略の視点で、従業員の健康づくりに取り組み、労働生産の向上を実現する新たな経営手法です。これを推進することによって、企業ブランドが向上するなど、経営的にも大きなメリットがあります。

※目標3番ターゲット

3.42030年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健及び福祉を促進する。

目標3番に関する具体的施策案

※日本経済団体連合会・企業行動憲章 実行の手引き(第8版)より 

  • 健康経営の推進に向けた体制を整備する。(経営陣の関与、専門部署の設置など)
  • 健康経営の実践に向け、健康の保持、増進に役立つ情報を提供する。(食事や運動に関するセミナーなど)
  • 健康保険組合などと連携して、生活習慣病などを予防し、食事や運動の推進に取り組む。
  • 長時間労働などの過重労働を防止する。
  • 労働災害の発生、ハラスメントの防止を徹底する。(管理職を対象に、教育研修や情報提供など)
  • メンタルヘルス対策に取り組む。(全従業員にストレスチェックを実施、産業保健スタッフの活用など)
  • 喫煙対策を徹底する。

※東京商工会議所『健康経営ハンドブック2018』より

  • 定期健診の受診率100%を目指す。
  • 公的健診以外での人間ドックなどの料金を会社が一部負担する。
  • ワークライフバランスに取り組む。(超過勤務時間の削減を管理職の評価項目に設定するなど)
  • 食事の改善に向けた取り組みを行う。(社員食堂などで健康に配慮したメニューを提供するなど)
  • 運動機会を提供する。(ストレッチの実施やフィットネス利用料金を会社が負担するなど)
  • 長時間労働者とメンタル不調者への対応策をとる。
  • 病気の治療と仕事の両立を支援する。(職場に健康づくり支援スタッフ等の相談口を設置したり、入院・通院のために、年次休暇とは別に休暇を取得できる制度を整えるなど)

目標8番「働きがいも経済成長も」

目標8番「働きがいも経済成長も」のターゲット(※)には、すべての労働者の働きがいと、同一労働同一賃金の達成が据えられています。働きがいのある労働環境の整備や、業員の能力開発の機会を提供することが重要な取り組みといえます。これまで経済成長のために長時間労働を前提とした職場風土があれば、この機会に是正し、従業員の能力開発の支援へと変革する必要があります。こうした取り組みが、従業員の働きがいと企業の成長を両立させます。 

※目標8番ターゲット

8.52030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一労働同一賃金を達成する。

目標8番に関する具体的施策案

※日本経済団体連合会・企業行動憲章 実行の手引き(第8版)より

【労働環境】

  • 「同一労働同一賃金」に対応する。
  • 長時間労働を削減する。
  • 年次有給休暇の取得を促進する。
  • ワークライフバランスに取り組む。(多様な雇用・就労形態を導入して仕事と生活の両立を支援する)

【能力開発】

  • 仕事を通じた部下指導や育成を計画的に行う。(メンター制度の活用、コーチングといった上司や部下指導・育成力を高める研修など)
  • 職場外研修を効果的に実施する。(新人研修、管理職研修、職種別研修など、キャリアステージに応じた職場外研修を実施し、業務遂行に必要な知識や能力の取得を促すなど)
  • 従業員のキャリア形成を支援する。(定期的にカウンセリングを実施する。高齢従業員には定年後の活躍を促す観点から、節目の年齢ごとに研修を実施してキャリアルートの明確化に努めるなど)
  • 従業員の学び直し(リカレント教育)の成果を積極的に評価する。

目標5番「ジェンダー平等を実現しよう」

目標5番の「ジェンダー平等を実現しよう」のターゲット(※)には、女性の参画、平等なリーダーシップの機会の確保、ジェンダー平等の促進が据えられています。人事として男女平等やLGBT(セクシャルマイノリティ)への配慮に取り組むことがこの目標に向けた取り組みとなります。

そのためには、“男性・女性・LGBT”といった性別による差別をなくし、多様な人材が活躍できる組織づくりがカギとなります。

※目標5番ターゲット

5.5政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保する。

5.cジェンダー平等の促進、ならびにすべての女性及び女子のあらゆるレベルでの能力強化のための適正な政策及び拘束力のある法規を導入・強化する。

目標5番に関する具体的施策案

※日本経済団体連合会・企業行動憲章 実行の手引き(第8版)より 

【男女平等】

  • 女性活躍推進法に基づき、女性従業員のキャリア形成支援に取り組む。(研修の充実、ロールモデルの提示、社外ネットワークの構築支援など)
  • 就労継続や昇進など、女性に不利にならないための環境を整備する。
  • 仕事と育児の両立支援制度の見直し、実施、整備を図る。
  • 男性側の意識改革を積極的に行う。
  • 女性管理職の拡大や役員登用につなげる。
  • 経営トップ、管理職、新入社員に至るまで、意識改革を行う。
  • 採用・昇進などにおいて、性別に関わりなく機会の均等を徹底する。

LGBT

  • セクシャルマイノリティへの適切な理解を促すとともに、その認識・受容を進める。
  • 当事者のカミングアウトの有無にかかわらず、多様な人材が存在することを前提とした社内の就業環境・制度の整備を進める。(経営理念や就業規則に盛り込むなど)

10番「人や国の不平等をなくそう」

10番の目標「人や国の不平等をなくそう」では、国籍、年齢、性別、障害などに関わりなくすべての人々の能力強化、社会的、経済的な包含の促進が据えられています(※)。人事にとっては、「ダイバーシティ・インクルージョンの推進」や「多様な人材の就労の確保」がカギとなります。そのためには、育児や介護、疾病など様々な事情を抱えても十分に能力が発揮できるような職場風土の醸成や、不合理で格差のない公平な処遇の推進などが考えられます。

※目標10番ターゲット

10.22030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、すべての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。

目標10番に関する具体的施策案

※日本経済団体連合会・企業行動憲章 実行の手引き(第8版)より 
※経団連手引き「6-1/6-2」参考

  • ダイバーシティに関する従業員への研修を実施する。
  • 新規学卒、高齢者、障がい者、外国人など、多様な人材の確保・定着に向けた取り組みを促進する。
  • 公正な人事・処遇制度を構築し、適切に運用する。
  • グローバルな人事・評価制度を構築し、最適な人材配置を行う。
  • 意欲と能力のある有期契約・パートタイム労働者を対象に、正社員登用制度を設ける。
  • 正社員とパートタイム・有期雇用・派遣労働者との間で、待遇に不合理な格差が生じないようする。

まとめ

ここで挙げた施策案のなかには、人事としてすでに取り組んでいる業務もあるでしょう。こうした取り組みはいずれも、SDGsへの取り組みの一種といえます。

また、この機会に労働関係法令(労働基準法・安全衛生法・男女雇用機会均等法・障害者雇用促進法など)の遵守を徹底し、自社の実情に合う新たな施策を加えるなどすると、より採用力が高まるなどのメリットも得られるはずです。