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「人材ロス」の解消へ。「サーキュラー・エコノミー」の視点で人事を捉える

公開日:2022/02/04 更新日:2023/09/14

従来の大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした直線型経済から、資源循環を促すことで新たな価値を生むことを目指す経済活動への転換として、循環型経済(サーキュラー・エコノミー)が注目されています。こうした「サーキュラー・エコノミー」の視点が人材マネジメントとどう関わるのかを考えてみましょう。

サーキュラー・エコノミー

サーキュラー・エコノミーの意味

従来の経済モデルはいわば直線型。「Take(資源を採掘して)」「Make(作って)」「Waste(捨てる)」というように大量生産・大量消費・大量廃棄を前提として、資源の枯渇や廃棄物量の増加などさまざまな負の影響をもたらすと問題視されています。また、環境・社会の両面から考えて持続可能な経済モデルではないことが明らかです。 

そこで、この直線型経済モデルに変わる考え方として注目されているのがサーキュラー・エコノミー(循環型経済)です。廃棄物をできるだけ少なくし、モノの価値を長期にわたり保全・維持することを目的とした考え方です。

<サーキュラー・エコノミーの3原則>

イギリスに拠点を置くサーキュラー・エコノミー推進団体、エレン・マッカーサー財団は、「サーキュラー・エコノミーの3原則」として以下の内容を挙げています。

廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う

製品の生産において、できるだけ再生利用可能な資源を用いて、廃棄物と汚染を生み出さない設計を行います。気候変動や生物多様性の喪失など負の影響を明らかにし、これを排除する生産システムを設計して、経済システムの効率性を高めることが目的です。廃棄物の概念自体が存在せず、原材料調達や製品・サービス設計の段階から資源の回収や再利用を目指します。

製品と原材料を使い続ける

製品が完成した後も、製品と原材料の長期利用を目指します。具体的には、資源の劣化に応じた多段階の活用、製品寿命を延ばすメンテナンスや、リースやシェアリングなどで資源利用効率を高めて、製品と原材料を高い価値を保ったまま循環させ続けます。

自然システムを再生する

生産者が製品のリサイクルを推進し、リサイクル資源を有効活用することで、新たな資源投入を抑えながら生産できるようになります。こうして自然への負荷を減らすだけでなく、自然にとってプラスになる仕組みができれば、経済活動も再生可能な資源フローの中で収支を合わせるようになり、自然資本の保存・増加につながります。

サーキュラー・エコノミーの拡大

総合コンサルティング企業であるアクセンチュアによって行われた2015年の調査では、サーキュラー・エコノミーは、2030年までに市場規模は4.5兆ドル規模との成長が予測されています。

世界人口の増加や新興国の経済成長、デジタル技術の進展によるサービスの加速化や地球温暖化問題が重なって、環境配慮の必要性が高まっています。これまでは経済と環境とを合わせた利益追求は不可能に近いと言われてきましたが、2010年代以降、民間の研究機関の指摘により、循環型の経済活動が可能であることが示されてきました。

今では、環境や循環性に配慮した経営が企業価値の向上や新たなエコシステムの構築につながるとして、欧州をはじめとするさまざまな国の企業がサーキュラー・エコノミーに注目しています。

サーキュラー・エコノミーと関連の深いキーワード

話題の新しい概念やサービスの中にも、サーキュラー・エコノミーと関連の深いものがあります。その理由とともにご紹介しましょう。

シェアリング・エコノミー

製品だけでなく、一般に誰かの所有物でありながら使われていないモノや場所などの「遊休資産」を、必要な人に提供したり共有したりする新しい経済活動のことです。共有によりモノを増やさず、循環させることができるため、サーキュラー・エコノミーの一環といえます。なお、フリマアプリやオークションサイトなども、製品の廃棄を防ぎながら売買で経済効果を生み出すことから、サーキュラー・エコノミーの一部とされています。

サブスクリプション

音楽や動画配信、さらには車や家具まで、サービスやコンテンツを定額で利用できるサービスのことです。売る「モノ」の量ではなく、継続による体験価値の増大を目指すことからサーキュラー・エコノミーの一環とされています。車や家具などのモノを扱う場合でも、所有権が事業者側に残るため一つの製品を長く使うインセンティブが働きやすく、環境や循環性に資すると考えられます。

サーキュラー・エコノミーが人材マネジメントにどう関係するか?

直線型経済からサーキュラー・エコノミー(循環型経済)に移行することで、人や雇用に対する考え方にも変化が起こると考えられます。 

その一例が、会社が求める人材像の変化です。

サーキュラー・エコノミーに移行すると、会社のビジネスモデルが変わり、仕事のあり方も変わり、必要な人材も変化していくことが考えられます。

たとえば、売り切り型の製品から継続型の製品になることで、営業活動にあたる人だけではなく継続的なサポートを行う人が必要になるかもしれません。

そうすると、顧客との長期的信頼関係の構築ができる人材が更に求められるようになったり、あるいは複数の分野で活躍できることの価値が上がり、さまざまな部署を経験し、職種や部署を横断できる人材が重宝されるようになったりと、求める人材像にも変化が生じる可能性があります。

それに伴い、会社としての人材マネジメントの在り方も変わり、リカレント教育やジョブローテーションのような仕組みが改めて注目される可能性もあるでしょう。

「サーキュラーHR」を考える

社会においてすべての基盤となるのは「人という資源」であることを考えれば、「人」に焦点を当て、その循環を意識する考え方もまた、これからの社会に必要な視点。そこで注目されているのが「サ―キュラーHR」という考え方です。

サ―キュラーHRとは、たとえば人材の能力を引き出せないまま退職を招く「人材ロス」からの脱却など、人材をより有効に活かそうとする考え方です。誰もが持続的に働き、個々の価値を発揮し続けられる社会を目指す考え方といえます。

「会社に合わせて一括で」から「個人に合わせた」従業員体験へ

従業員が持続的に個々の価値を発揮し続けるためには、従業員のスキルとウェルビーイングを進化・適応させていく必要があります。 

そこでマネジメントにおいて重要となるのが、会社に合わせて一括で行うのではなく一人ひとりの従業員に合わせた従業員体験です。

例えば、上司と部下の間のコミュニケーションにおいては一人ひとりカスタマイズされたものが必要です。

1on1面談などの定期的な対話の場を設け、部下のライフスタイルやキャリア志向、保有スキルを把握し、部下一人一人のありたい姿を実現するためにどのように上司としてのサポートが出来るかを考える、といった従業員体験の最適化が現場レベルでも重要でしょう。

このように従業員個々の実力を最大限発揮できるように人的資源が最適化された「サーキュラーHR」に移行していくことで、業績向上とウェルビーイングが同時実現され、企業のステークホルダー全体の幸福感が高まるというメリットにもつながるかも知れません。

まとめに変えて

現時点で「サーキュラー・エコノミー」といったときには、物理的な資源の循環が話題になりやすく、「人」への視点が不足しているのが実情です。しかし、この視点を「人」に当てはめることは、今後の人材活用にも役立つはずです。人事部門がサーキュラー・エコノミーを意識することにも、大きな意義があるといえるでしょう。

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