コラムcolumn

5分でわかるビジネストレンドワード

人生100年時代の「リカレント教育」を考える

「人生100年時代」といわれる現在、企業のあいだでは、社会人の学び「リカレント教育」を導入しはじめる動きがあります。企業と働く側にとっては、どんなメリットがあるのか、課題とともに考えてみましょう。

「リカレント教育」の定義

「リカレント教育」とは、義務教育や専門学校、大学での学びを終えて社会人となり、そこから各自のタイミングで学び直し、仕事で求められる能力や知識を磨く教育のことです。リカレント(recurrent)は日本語で“繰り返す”“循環”といった意味になります。 

1970年代にスウェーデンの経済学者ゴスタ・レーンがリカレント教育を提唱し、それが経済協力開発機構(OECD)に取り上げられたことで世界的に広まりました。 

リカレント教育と混同されやすいものに「生涯学習」がありますが、一般的に学ぶ目的が異なります。リカレント教育は、仕事に必要な能力や知識などを取得する目的の学びです。一方、生涯学習は豊かな人生を送ることを目的とした学びとなり、学校教育、家庭教育、文化活動、スポーツ活動、趣味などさまざまな学習を指します。

なぜリカレント教育が注目されているのか

理由1)人生100年時代の到来

企業と働く側の双方で、イギリスの組織論学者リンダ・グラットンが提唱する「人生100年時代」という考え方への関心が高まっています。寿命が100歳前後まで延びれば従来のキャリアパスでは通用しなくなり、それを見据えたライフプランの設計が必要です。とくに最近は、女性がライフイベント後の仕事復帰に、シニアが定年退職後の再就職のために、リカレント教育を受けるケースが出ています。

理由2)雇用の流動化

日本は、これまでの終身雇用の社会から、年収アップや仕事のやりがいを求めて転職する「流動化」社会へと変容しています。どの会社に行っても通用するスキルを高め、キャリア自律のためにリカレント教育を望む人が多くなってきたといえます。

理由3)市場の変化

世界的に技術革新とグローバル化が進むなか、従来の仕事の仕方やスキルでは通用しない「市場の変化」があります。企業や労働者はつねに学び続けて、市場の変化に対応する必要があります。これにリカレント教育が有効と考えられています。

理由4)人材・働き方の多様化

少子高齢化によって企業は採用難に悩まされており、人材雇用の幅を広げる「多様な人材と働き方」を意識しはじめています。そのため、あらゆるキャリアパスを持つ人々が同じ職場で働くことができる学習体制づくりを模索しており、その候補として、リカレント教育の取り入れを検討する企業が現れています。

企業と従業員のメリット

企業がリカレント教育を取り入れた場合、どんなメリットがあるのでしょうか。企業と従業員それぞれの視点で解説します。

■企業のメリット

生産性向上が期待できる

従業員が新たなスキルや知識を身につけ、職務の専門性を磨くことで、企業は社内の業務改善やイノベーションにつなげやすくなります。結果として、自社の生産性向上が期待できます。

自社のことを理解している人材は貴重な存在と考え、外部からの採用は控えて今いる従業員のスキルアップを図っている企業もあります。

エンゲージメントの向上につながる

従業員が新たなスキルや知識を身につけられれば、業務の幅が増えます。そうすると組織内でのキャリアパスが描きやすくなり、従業員のエンゲージメントの向上にもつながります。

 人材のリテンションにつながる

リカレント教育によって従業員のエンゲージメントが高まると、結果としてリテンションにもつながり、人材の流出を防ぎ、労働力を維持することが期待できます。

■従業員のメリット

キャリアアップができる

大学などのリカレント教育のカリキュラムには、実務に役立つ内容が充実しています。専門的で高度な講義を受けることで、実践的な知識が身につき、キャリアアップやスキルアップができます。

定年後も活躍できる

リカレント教育で学び直せば、定年後の活躍が期待できます。これまでの経験に加え、新しいスキルや知識を身につけられれば、定年後の再雇用や再就職時に有利になります。

国もさまざまな支援を用意している

リカレント教育の制度づくりをしたい企業や、リカレント教育を受けたい従業員に対して、国が行っている支援策をいくつかご紹介します。

企業が活用できる制度

人材開発支援助成金

従業員のスキルアップのためや、長期の休暇をとらせてリカレント教育を受けさせたい場合に活用できる制度です。この制度は2種類あり、1つは、「特定訓練コース/一般訓練コース」といって、企業が雇用保険被保険者に対して、職務の専門性を磨いたり知識の取得を目的とした訓練を行った場合、訓練中の賃金と、訓練にかかった経費の一部が助成されます。

もう1つは、「教育訓練休暇付与コース」といって、リカレント教育のための教育訓練休暇を企業が導入し、従業員が実際に休暇制度を活用した場合に出る助成金です。制度の導入経費と、訓練中の賃金の一部が助成されます。助成内容には「教育訓練休暇制度」と「長期教育訓練休暇制度」があります。

生産性向上支援訓練

専門的な知見とノウハウを持つ、民間の人材育成機関の訓練を低コストで受けることができます。これを活用することで、生産性を向上させるためのスキルや知識が身につけられます。

企業内のキャリアコンサルティング(セルフ・キャリアドック)

企業内でキャリアサルティングの導入を検討している場合、専門家による無料のキャリアコンサルティングを試行的に受けることができます。

労働者が活用できる制度

教育訓練給付制度

労働者の主体的な能力開発の取り組みや、長期的なキャリアアップを支援する制度で、雇用の安定や再就職を促すことを目的としています。これを活用すれば、教育訓練にかかった費用の一部が助成されます。

現状での課題と企業の支援事例

すでに存在していた教育システムのリカレント教育は、「人生100年時代」といわれ、高齢者の雇用延長や女性の再就職が話題になってからとくに注目されていますが、現時点ではいくつかの課題もあります。

課題1)導入する企業が少ない

従業員がキャリアアップのためにリカレント教育を活用しやすくするためには、国と企業側のサポートが重要です。しかし国の支援はまだ少なく、リカレント教育に取り組む企業も多くありません。

課題2)制度が充実していない

リカレント教育の先進国であるスウェーデンを含む北欧に比べると、日本は長期の休暇を使って学べる制度が充実していません。そのため、会社を辞めて定期的な収入がないなかで学ぶのが実情です。

課題3)働きながら学べる教育機関が限られる

働きながらリカレント教育を受けようとした場合、学べる教育機関やカリキュラムが限られています。キャリアアップのために働きながらリカレント教育を受講するには、まだハードルが高いといえます。

課題4)費用の支援が不足している

リカレント教育にかかる費用は、国が支援する給付金では少なく、学ぶ側に大きな負担となっています。

まとめ

厚生労働省を中心に、文部科学省や経済産業省などは「人生100年時代」を見据え、リカレント教育の支援内容を強化する流れにあります。高齢者の雇用延長や女性の再就職が増えていく時勢を見据え、企業も積極的に制度づくりに取り組んでいく価値があるでしょう。