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VUCAを生きる企業人に欠かせない「戦略思考」を学ぶ(1)

公開日:2023/05/15 更新日:2023/05/15

研修の最前線で活躍する講師に、注目のテーマについて聞き、人材育成について考えるインタビュー。今回は、VUCA時代に欠かせないスキルとして改めて注目されている「戦略思考」についてです。語り手は、自らもコンサルタントとして活動しながら人材育成に振り組む田村健二氏。第1回は、「なぜ今戦略思考なのか」を、日本企業の特徴とともに語っていただきました。


● 講師プロフィール

田村 健二(たむら けんじ)氏

田村 健二(たむら けんじ)氏
株式会社経営革新ラボ 代表取締役

1995年 早稲田大学理工学部卒業後、日本道路公団(現NEXCO)に入職。1998年より株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて経営コンサルタントの経験を積み、2018年より現職。中堅企業の経営者の参謀役として多面的な支援を行い、コスト削減、売上拡大の実成果を上げることを得意とする一方、上場企業におけるビジネスリーダー育成にも力を入れている。主な支援範囲はビジョンや中期経営計画の策定、マーケティング戦略立案、戦略実行のためのマネジメント体制構築、人事制度構築、開発・製造・営業機能のマネジメント改革等。ボンド大学経営学修士(MBA)。

戦略思考力とは ~目的を決め、そのために意思決定する力

田村 健二氏

 戦略思考力とは何かを一言でいうと、「大きな目的を決め、どうすれば目的が達成されるのかをゼロベースで考え、意思決定していく」力だといえます。

 この「目的を決める」ということは、ゴール、つまり企業であれば売上を何倍にしたいとか、認知度を上げたいといったことを決めるということで、経営者は常にこういうことを考えて意思決定しています。しかし日本の企業、とくに大企業では、管理職も含めた従業員は長い間そういう考え方をしないでここまで来ました。というのは、経済が成長し、「モノを作れば売れた」時代に重宝されたのは、敷かれたレールやしくみに則ってそれを「うまく回す」力であり、「自分でレールを敷く」力ではなかったからです。

 とはいえ、そんな時代はバブル崩壊とともに30年前に終わっているわけで、戦略思考力についても、「こういう力が必要だ」と言われるようになってずいぶん経ちます。ところが実際は、こういう力が身についている人はまだまだ少ないのが現状です。

戦略思考が必要な理由 ~技術の進歩に企業のあり方が追いついていない

 こうなっている原因は企業の側にもあると思います。戦略思考は、単なる知識ではないため、学んだだけでは身につきません。学んだ方法論をビジネスの現場で実践することで身につけていくものであり、「発揮する」場があって初めて身につくのです。しかし現実には、「戦略思考が必要だ」と考えてはいても、それを発揮する場はない、という企業がまだまだ多いんですね。原因としては、人事制度や評価基準など人の統制に関わる部分が変わっていないことなどがあるのですが、とにかく現状では、長年の価値観をまだまだ変えられずにいます。

 そんな中で、今改めて戦略思考力が必要だと言われるのは、一つには、技術や環境の進化が、「早く」「大きく」「見えない」ことを、ここへ来て多くの人が実感しているからだと思います。消費スタイルも変わり、サブスクが一般化して「所有から利用へ」などと言われる中で、ビジネスにも新しいものが生まれないといけない。とくに大きいのは、AIが本格的に活用され始めた頃から、それまで統合されていなかった技術が統合され、大きな技術的変革が生まれたことだと思います。こうした要素技術の進歩と企業のあり方にギャップがあり、だからこそ企業は変革しなければならない。「失われた30年」をもう一度繰り返さないためにも、今度こそ本当に戦略思考力が必要だと多くの人が考えているわけです。

「変革こそが企業を成長させる」と実感した田村氏自身の経験とは?

 私自身はもともと、「世の中を全体的によくする」仕事に関心があり、最初はインフラの世界を志しました。しかし、バブル後の世の中で、新しいものを「建設」していくことに疑問を感じ、「ハード」の世界から「ソフト」の世界に移りたくてコンサル業界に転身しました。

 当時、主に製造業の生産性工場やコスト削減に取り組む中で経験したのが、相次ぐ中国への工場移転でした。日本の製造業が続々と中国に工場を移転する中で実感したのは、国内の工場でどんなに生産性を上げる努力をしても、結局は「中国に工場を移す」という意志決定のほうがよほどインパクトが大きいということです。個別の業務を改善していくことは、それはそれで必要ではあるものの、もっとダイナミックに企業の方向性を見出し、そこに向かって「大きな変革」をしないと成長には結びつかないのだと思い知ったのです。

 今、「戦略思考」というテーマに取り組むようになったのも、そうした考え方で大きな変革を起こすことが、日本の成長につながると考えているから。それは、「世の中を全体的によくしたい」という若い頃の思いともつながっています。

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第2回では、戦略思考を身につけるのに「頭のよさ」は必要ない理由、そして、誰もが戦略思考を身につけることができる効果的な学び方をお話しいただきます。