講師インタビューtrainer

本能に働きかけるツール“コーポレートドラムサークル”とは?|言葉を超えて「関係の質」を高める組織開発 vol.3

公開日:2015/09/15 更新日:2020/05/06

研修の最前線で活躍する講師へのインタビューを通じて、人材育成について考えるシリーズ。
組織開発・組織変革と“楽器”―。一見、遠いところにあるように思えますが、言葉の限界を超えて組織の「関係の質」を高めることに、「リズム」は大きな作用をもたらします。組織メンバーの参加意識・協働意識や、創造性につながるアクティビティ「ドラムサークル」を切り口に、人間の本能への理解を踏まえた組織開発の取り組みについて、深代達也講師にお話を伺っていきます。

本能に働きかけるツール “コーポレートドラムサークル”とは?

-不安や不信が、組織の対話の邪魔をするのですね。

(深代)
動物的な部分というのは、言葉や理屈では表しきれない世界なのですね。
「対話」というのは基本的には理屈であり、それなりにロジックが求められるわけです。
互いに安心がない限りは語りづらいし、聴く側も傾聴するマインドセットにはなりません。

不安・不信を解消するために、何か本能に働きかけるツールはないか。そこで取り上げたのが「ドラムサークル」と「Health Rhythms(メンバー相互にエンパワーしあい、逆境に負けない心・柔軟性と社会性を高めるための、米国REMO社が開発した、科学的な根拠に基づいたドラミングプログラム)」です。
それに組織開発の視点を入れ、企業向けにプログラム化して、「コーポレートドラムサークル」として展開しています。

例えば、何か音のなるものを一緒に振っていたとして、リズムが合うと少し気持が良くなったりとか、合わないと気持ちが悪くなったりします。これは、基本的に動物的、生理的な感覚で、不快な状態を解消しようとします。
この背景には、同期(シンクロ)現象という自然法則があります。

例えば、振り子の揺れはだんだんと同期するし、蛍の光る周期も同期をしたりしますね
渡り鳥は、飛ぶ時に一定の形で一緒に飛ぶことによって、同期をして、飛ぶのを楽にしたりしているのです。私たちも、誰かと歩いていると何となく足のステップが合ってくるとか、コンサートに行って手を叩き始めたら、手拍子が合ってくるとか、そういう経験があると思います。こういう同期をするというのは、まさに自然法則ですね。

そしてこれは本当に生命のリズムなわけです。

人は生きるためにリズムをもっています。例えば、心拍、呼吸、起床睡眠、脳波、ホルモンなどが典型的にあらゆる人に備わっているリズムです。だからリズムが合えば、何となく心地良く感じてしまうのです。逆に、リズムが合わないと仕事がやりにくいということも出てきます。

リズムが合って同期しているときはセロトニンが増大しているという研究結果もあります。
セロトニンというのは心のバランスを整える作用のある伝達物質で、前向きな気分になりやすいといわれています。

じゃあ楽器を使って実際に「コーポレートドラムサークル」をやってみましょうか。みなさん、鈴を一緒に振って下さい。

…一緒に振ったからこそ、今のこのメロディーが生まれました。

では、あなただけ、今のリズムをキープして、他の人は1、2、3、4でやめましょう。

…どうですか、他の人が振っているのをやめたときに、どんな気持がしましたか?

-何となく不安な感じです。

(深代)
不安になりましたか。それはすごく重要なことです。
工夫をしていたり、意識をみんなに合わせようとしていたり、何かに貢献しようとしているからこそ出てくる不安です。そうした意識がなければ、不安なんて一切感じませんよね。そしてそれを続けていくと、だんだん自信がついてきます。

リズムによる単純な仕掛けだからこそチームの本質を体感できる

(深代)
では、みなさんもまた参加しましょう。今1人だけで振った方は、みんなで振ったら、どんな気持がしましたか?

-少し不安だったけれど、これで大丈夫なのだろうと安心できる感じがします。

(深代)
やはり1人だけではなく、お互いが周りを受け止めて、アイコンタクトしながら、良く聴き、合わせることで、手ごたえが得られ、チームに自分が貢献していくことを実感できましたね。
それは「You are OK」「I am OK」という相互承認の状況がうまれるということですし、「快」を感じるドーパミンが分泌されることにもなります。

-「ドラムサークル」に参加しているみなさんが、最初はどうしようかと戸惑いながら、楽器を手にしているところ、深代さんはこうやってリードされるのですね。

その時に、今どんな気持がするのかということを問いかけ、気持ちを受容するのは、大切なことなのですか?

(深代)
はい。とても大切です。

さらに、組織や仕事の場面によっては「自由にやっていい」とリードされることもありますよね?では、こうやって鈴を振り続けながら、この中にうまく「自分なりのリズム」を入れてみてくれますか?

…みんなと同期はさせているのだけれど、自由に、工夫を入れる。言われた通りにやるのと違って、そこには勇気が要りますよね。そして、これでいいのかと思いますよね?

~つづく(3/5)~

◆深代 達也(ふかしろたつや)プロフィール◆

一般社団法人日本能率協会 KAIKAプロジェクト室 主管研究員
組織開発分野セミナー講師:チームビルディング、組織力向上、モティベーションマネジメント、エンゲージメント向上
米国NLP協会認定トレーナー、DiSC公認インストラクター、Ocapiプラクティショナー
米国REMO社HealthRhythms&HealthRhythms Adolescent Protocolファシリテーター
“トレーニング・ビート”認定トレーナー、ドラムサークルファシリテーター協会会員
日本能率協会総合研究所にて、バランスト・スコアカードや人事革新・組織活性を中心としたコンサルティング&人材育成に従事。同研究所経営コンサルティング部長を経て「人と組織の可能性の最大化」を使命とする株式会社可能性コンサルタンツを設立。その後現職。
現在は、音楽なども活用した組織開発の推進支援、企業理念共有支援、エンゲージメント向上支援、インフルエンサーに向けたチームをエンパワーする力向上などの現場指導・人材育成等を推進している。