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全薬工業【経営幹部育成】

公開日:2020/05/18 更新日:2023/09/08

次世代事業推進者の育成研修の中で、経営理念や会社のこれまでの歴史・積み重ねてきた事業精神とこれからの将来について、議論し熟成させていくことを重視されている全薬工業株式会社。取り組みの背景や成果について総務人事部 人事課係長  澤井裕美様と、同課主任  山田英様にお話を聞かせていただきました。聞き手は日本能率協会(JMA)近藤健介、小関俊洋です。(本文中敬称略)

次世代事業推進者の育成研修 実施の背景・課題とは?

(近藤) それではインタビューを始めさせていただきます。まず、お二人の現在の会社内でのお立場、役割についてお聞かせいただけますか。 (澤井) 全社的な教育研修体系の構築から個々の研修企画運営を担当しています。 (山田) 私は採用業務の担当ですが、採用と研修はやはりシームレスにしたほうがいいという考えがありますので、今一緒のグループで取り組んでいるところです。 (近藤) 今回JMAにご依頼いただいた研修のテーマについて、あらためてお聞かせください。 (澤井) 次世代の事業推進者の育成をテーマに、JMAさんに研修をお願いいたしました。 (近藤) 研修を導入される前、教育担当として、どのような課題を感じておられましたか? (澤井) かつては、全薬工業のコアコンピタンスを強みとしていろいろな事業に取り組んできたのですけれども、近年はその強みを認識して事業を推進するということができていないのではないかという問題意識があります。もう一度、過去からある“全薬の考え、事業精神や理念”といったものを熟成していくことを課題に、人材育成の計画を立てています(近藤) なぜ今回も我々JMAに研修のご相談をいただけたのか、何かきっかけとなるようなことはありましたか? (澤井) 以前お願いした営業研修は会員窓口からご相談したことがきっかけとなりましたが、その際に、既製のカリキュラムではなく、我々の意向に沿って研修の内容をカスタマイズしてくださったというところが、今回JMAさんに研修をお願いする決め手となりました。

研修を実施して見えてきた効果

(近藤) 次世代の事業推進者育成のために始められた今回の「マネジメント研修」を進めていく過程で、障害や悩みなどはおありになりましたか。 (山田) 研修全般にいえることですが、“効果の測定”の難しさを感じました。「マネジメント研修」でしたので、将来のマネジャー候補・リーダー候補となる方たちを、どのようにして育成していくのか、その育成効果をどうやって見るかということに、少し不安を感じていました。けれども実際に研修をおこなっていく中で、少しずつ受講者の意識が変わっていく様子を見ることができ、研修の効果を感じられる場面はありました。具体的な業務上の効果として表れてくるのは、研修が終わった今後に期待するところです。 (近藤) 研修期間中という短いスパンでは、例えば、最終回の発表の場など、研修を受ける前と比べて発言の質が変わってきたとか、そういったところも効果として見ることができるかもしれませんね。 (澤井) あともう一点、受講者が今までは自分の担当業務しか見えていなかったと思うのですが、それを全社的な視点で考える機会になったことは、良かったと思っています。 研修を受講することにより、将来の“全薬工業”のことや、あるいは過去の“全薬工業”のことについて、皆で話す機会、考える機会、意見をぶつけ合う機会を持てたということは、やはり効果があったとみてよいと思います。 人事としても、受講者が今何を考えているのか、今の管理職が、どういう考えで仕事をしているのかということを、多少なりとも知ることができたことは、とてもいい機会だったと思います。

研修実施にあたっての不安や社内の反応は?

(近藤) 繰り返しになってしまいますが、そうした研修の効果も含め、不安な部分はどのように解消されていったのでしょうか? (山田) 初めての試みでしたので、不安を払拭するというよりも、まずは実際に研修をやってみてから考えようという姿勢でした。その結果、1年目で実際に効果として感じられるところがありましたので、2年目も継続しようということになりました。 (澤井) 各部門の受講者上司の方々がこの研修に期待をもっていて、部下を受講させたいという上司からの推薦が私たちが想定していた2倍以上あったことも、進めていく後押しになりました。

自社課題に踏み込んだオリジナルの研修を構築

(近藤) 上司の方のバックアップがあることによって、参加される受講者の方のモチベーションも上がるでしょうし、そういった点も効果のひとつとなりますよね。 今回、我々と一緒に研修を実施いただいての率直な感想やご意見、または今後JMAに期待することなどがありましたら、ぜひお聞かせいただきたいのですが。 (澤井) こちらからの要望をいろいろと聞いてくださり、無理なお願いでも一緒に考えてカリキュラム構成を提案してくださったのが、とてもありがたかったです。(「マネジメント研修」概要図:右下の図を拡大クリックしてご覧ください) 今後も、当社の社員のレベルに合ったオリジナルな研修を企画していく必要があると考えております。今回おこなった研修の課題や改善点などを一緒に考えていただき、次はどういう施策をとるべきなのかといったことも、どんどん提案していただければと思います。 将来的には、当社に必要な事業推進者を育成するためにはどのような「研修体系」を構築していけばいいのか、といったところまで提案していただくことを期待しています。 (山田) 特に良かったなと感じたのは、講師の桐野先生が、当社の課題に入り込んでいろいろと考えてくださり、当社に合わせて研修内容も作り込んでくださったというところでした。 (近藤) 桐野講師は、要望に対してもれなく応えていこうという意識を高く持っている講師のひとりですので。 (澤井) 本当にありがたいです。

「経営理念の共有・理解」に若年層からアプローチを

(近藤) 研修を評価していただき、我々も担当として非常に嬉しく思いますし、カスタマイズのご要望に応えるために、講師を中心に一緒に御社のことを勉強しながら提案させていただけるということに、私も大変感謝しております。 御社以外にも、実は多くの会社が、“マネジメント層の育成”で悩まれています。同じような課題をお持ちの方へのメッセージをいただければと思うのですが。 (澤井) やはり大事なのは、経営理念というものを、いかに皆が理解・共有するかということ、そのことに関わる人材育成だと思いますね。 上司の立場になってから経営理念を学ぶ機会をあらたまって作るのではなく、若い段階から、常に会社の理念や、当社の事業とはこういう風にやっていくものだといったこと、あるいは過去の経験談というものを、どんどん伝えていくことによって、今悩んでいる課題は少なくなると思います。 マネジメント層の育成や次世代の事業推進者の育成を担当する方は、上の年齢層に対してだけではなく、ぜひ、若い社員に対しても早期からそういった教育をされていくことはいいのではないかと感じました。 (近藤) 経営理念の浸透・共有というのは、昔であれば、就業時間後の「飲みニケーション」のような場を通じて行われてきた部分もあると思うのですが、最近はドライになってきていて業務以外の場での浸透・共有に期待するのは結構難しい状況でもありますね。 (澤井) 今回、事例研究をやった時に感じたのが、全薬工業の歴史を知っている社員が、意外に少ないということでした。個々の出来事があったということは知っているのですけれども、では具体的に“どういう動きがあったのか、誰がやっていたのか、どういう問題があったのか”といった全体を知っている人というのが、社内にほとんどいませんでした。もちろん資料は残っているのですが、それが残っている世代に伝えられていないという。 研修で事例研究に取り組んだ社員は、“これは自分の部署だけではなく、関連する部署にもこの事実は知っておいてもらったほうがいいし、共有したい”とも言っていました。もしかすると歴史の語り継ぎが行われていないことが、今まで経営理念や育成の部分でうまくいっていない原因のひとつなのかなと思いました。 (小関) 例えば、何年に新商品を出したというようなことは残りやすいけれども、その背景にあるコンテクストといったものは、なかなか残らないのですね。 (山田) 今回の研修は、そういった自社用のケース作成をおこなった点も良かったのではないかと思います。 (小関) 今回の研修では、皆さん、自分たちでお作りになっていますよね。 (澤井) はい。他の企業の方も、ぜひやられてみるといいと思います。意外に知らない人間関係などが出てきたりします。 (山田) 時代が違っても、“経営やマネジメントの基本”というものはあまり変わらないのかと思いますので、その時その時に、“主人公たち”はどういう判断をしたのかということを学ぶのは、非常に大きなことなのではないかなと思います。自社に関することであればなおさらだと思いますので、そういう点でも今回の研修は良かったと思っています。 (小関) こういった取り組みの中で、普遍的な教訓みたいなものが出てきますよね。

今後の課題・・・行動する力・デザイン力へ

(近藤) 今後の課題についてもお聞かせください。 (澤井) 課題はいろいろあるのですが、今回の「マネジメント研修」では、基本的な知識・スキルというものを学ぶことが主目的でしたので、次のステップはそれを実行していく“行動する力”の部分に焦点をあてたいと思います。“行動する力”と、実際に行動していく為の“デザイン力”といったものが、今後の研修の課題になってくるのかなと思っています。 (近藤) 研修で学ばれたことを、これからの業務にどう反映していくかというところですよね。 (澤井) “行動する力”というのは、研修で知識を学んだから得られるようになるわけではありませんので、どうその実行力に変えていくのかというところが、今後の課題でしょうね。 (山田) マネジメント層の育成については、「管理者育成研修」という主任、係長主体の研修に加えて、次世代の事業推進者リを育成するということで、昨年度から取りかかったところです。今後は部長職以上を対象とした研修の取り組みも課題として考えています。 (近藤) 今の課長クラスの方が、将来、部長になられたときに対応できるようなものが必要になってきますね。

経営理念を意識した研修テーマとは?

(近藤) 先ほどのお話の中で経営理念についてのお話がありましたが、よろしければ、少し詳しくご紹介いただけますでしょうか。 (山田) 「独立自営」「相互扶助」「事業を通じて社会人類に貢献しなければならない」という3つの“社是”があります。 あともうひとつ、「模倣せず、一歩前進した医薬品を創生し、効きめをつくり、効きめで奉仕する」という、“創薬理念”があります。 (近藤) そういったことを、製薬を通して実現をしていくということですね。私の身内で製薬技術に関わる仕事をしている人間が御社の薬の成分などを拝見した時に、「やっぱりいいものを使っているな」という話を聞いたりします。私も実際御社の商品を服用して、効果を実感しています。 (山田) 「効きめをつくり、効きめで奉仕する」というところに重きを置いていますので、“効きめ”という部分にはこだわってやっています。また、製品の安全性も重視しています。弊社の社名は「完全で安全な製品を、万全を期してつくる」という考えが基になっています。 (澤井) 原材料には非常にこだわりを持っています。原材料は産地も重要ですので、どこの産地の原料が一番いいのかといったことを開発の人が追求していますね。 (山田) 「模倣せず」という精神に基づいて、オリジナリティー、イノベーションということも大事にしたいと考えています。新しい考え方や、発想力といったところを身につけてもらおうということもあり、今回の「マネジメント研修」を企画しました。 このオリジナリティーを守る精神と、先程澤井が言っていた“実行力”という部分を高めていけば、会社がもっと盛り上がっていくのではないかと思っています。 (近藤) 今後もご要望に沿えますよう、引き続き考えていきたいと思います。 本日はありがとうございました。 関連ページ ・次世代経営者・経営幹部育成