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トッパン・フォームズ【経営幹部育成】

公開日:2020/05/18 更新日:2023/09/08


「新任部長研修」を始めとして、階層別の社内研修でJMAを利用いただいているトッパンフォームズ様。ビジネスニーズに合わせた人材育成体系の考え方と、これからの部長層に期待される役割・能力について同社総務本部能力開発部長 野沢淳様にお話を伺いました。聞き手は日本能率協会(JMA)小峯郁江です。(本文中敬称略)

経営課題を前提に、人材育成体系を具体化する

(小峯) 野沢さんのお仕事の内容からお伺いしたいと思います。現在、どのようなお立場で、どのような仕事をなさっていますか。 (野沢) 2015年4月に総務本部の能力開発部に着任しました。 私の役割は、トッパンフォームズ全体の人材育成方針を打ち出し、それに基づく研修体系全体を構想することです。 経営方針と現場の動きの双方に沿った研修プランの立案が重要ですね。個々の人材育成テーマ・研修には担当者を置いていますが、私自身も、日本能率協会さんにお願いしている管理職系の研修については担当しています。 (小峯) 今のお話からすると、ビジネスニーズに即した人材育成の方針を立て、それを実現するための育成体系を構築するお役割だと思います。そのビジネスニーズについては、現状で実際にどんなことを求められているのでしょうか。経営からの具体的なメッセージがありましたら、お教えください。 (野沢) 1つは中長期経営方針がそれに当たります。中長期経営計画に示された課題に近いところを探りながら、人材育成を進めています。これはあくまで中長期ですから、年次単位でも考えないといけないでしょう。 それとさらにもう1段具体的に落としたところでは、IT系やシニア層に対する人材育成方針ですね。当社は最長65歳まで在籍できますが、50歳過ぎからのキャリア支援がまだしっかりと整っていません。人事と連携し、その辺を整備したいとも考えています。 あとはやはりグローバル人材の育成です。こちらは喫緊の課題だと思いますね。

研修の事後フォローの取り組み

(小峯) OJTのような現場の取り組みの支援も人材育成体系に含めると、能力開発部でご担当になっていることは“研修”に限らないと考えてよいでしょうか。 (野沢) そうですね、OJTも含めたものになります。 (小峯) 例えば、新入社員の方が入社してきたときに、メンターやOJT責任者などをアレンジするのも能力開発部の役割でしょうか。職場のOJTに能力開発部としてどのように関わっているか、具体的な例を教えていただけますか? (野沢) OJTのメンターを誰にするかは、現場に任せています。1年を通じて新入社員の育成としてどんなことを進めていくのかは、能力開発部が提供する共通の決まったプログラムがあります。それに基づいて現場が動いています。 あとはOJTメンターを対象にも研修を実施し、彼・彼女らから育成状況に関するレポートをもらうようにしています。 (小峯) 新入社員育成だけでなく、研修をして“やりっ放し”になってしまうことのないよう、実務と結びつける工夫はありますか。 (野沢) いくつかの研修では、必ず数か月後にフォロー研修をするようにしています。研修を受けた後、職場実践してみて、その結果がどうだったのかを振り返る機会を設けています。 (小峯) 素晴らしいですね。その辺りは他社の参考になると思います。 (野沢) ただ、そういったフォローも形式をつくるとどうしても形骸化に陥ってしまいます。そこで1番大切だと感じているのは、“研修を受ける本人に対してよりも、その上司にどれだけ我々能力開発部が関われるか”だと思います。 (小峯) 上司の方への働きかけはどのようにされていますか? (野沢) 例えば、営業系の研修だと、対象者から「忙しくてなかなか研修は受けられない」という声が出ることもあります。そんな時は「こういう意味でやっています」と上司にはっきりと動機付けの説明をするように心がけているのです。 事後フォローとしては、上司だけを集めて「今回はこういう研修でした」と結果をお伝えしています。 (小峯) それは大切なことですね。私どもがご支援している「新7等級研修」や「新任部長研修」は、何年か経つとその研修を受けた方が上司になるサイクルができると思います。そうなると組織の理解が深まるはずですが、サイクルができ上がるには時間がかかりますので、フォローする仕組みがあるのはいいですね。

「新任部長研修」のハードさ

(小峯) 「新任部長研修」に話を移しますが、野沢さんご自身が研修を受講されたのはいつでしたでしょうか。 (野沢) 受講したのは2010年度ですね。当時は「経営塾」というタイトルで実施されていて、今とは違い選抜研修のような形式をとっていました。現在は新任部長全員対象の研修になっています。 (小峯) そのプログラムで学んだことについて特に印象に残ったことはありますか。 (野沢) 一番印象に残っているのは研修の“進め方”です。当時はビジネススクールスタイルの研修に慣れていませんでしたので、ついていくのが大変でした。 投げかけられた質問に他人が答えるのを聞きながら、自分の中で意見をまとめ、即座にアウトプットするところはとてもハードに感じられました。段々と慣れていきましたが、最初は少し戸惑いを感じました。 (小峯) 日常業務に没頭してきた中で、他人の意見に対して“本当にそうなのか?”という見方をしてみたり、また逆にそのように自分が見られたときにしっかりと自らの意見を述べていくことは確かに大変ですね。 (野沢) 自分の意見を言うことはできても、他人の意見を論理的に・健全に批判するのは難しいですね。

「新任部長研修」3つの重要な“ねらい”

(小峯) 選抜制から新任部長全員に研修対象が変わった中、野沢さんはこの“新任部長研修”にどのようなことを期待されているか、あらためてお聞かせください。 (野沢) 要点は3つあります。1つ目はそれぞれの立場で自社の事業をどう成長させていくかを考えることです。もう1つは部長として組織マネジメントをどう実行していくかを確立することです。それからもう1つが経営層に必要な人間力をつけること。この3つを目的としてやっています。 (小峯) 1つ目の「事業の成長」については、既存事業の拡大と同時に、新しい事業の創出も期待されていますか。 (野沢) 当社の事業は、ビジネスフォーム印刷から始まり、データ・プリント・サービス、ビジネスプロセスアウトソーシングへとどんどん広がっています。ここへ来てITも融合して進めていこうとしています。 お客様の要望やニーズは非常に多岐にわたっていますから、それを受けて事業領域が広がっていくのです。要求されるレベルも非常に高いものがあります。このようにビジネス環境は大きく変わろうとしていて、競合先も以前と全く異なる顔ぶれになってきています。 今までの成功体験に執着していると、少しも前に進めない状況になっているように見えるほどです。その中で新しい事業を手かげていくことは切に求められています。 ただ、現実的には大きな環境変化の中で戦略を決め、意思決定することが、非常に難しくなってきています。だからこそ「自分の言葉で戦略を語れる人物」が非常に重要視されています。自分の部門のビジョンを形成でき、上意下達式の組織の中で本部長のいったことを伝えるだけでなく、自分で戦略を創造できるだけの気骨のある人物が必要なのです

経営幹部の「人間力」についての考え方

(小峯) 「新任部長研修」に期待することとして、3点目で挙げられた「人間力」について貴社ではどのように捉えているか、もう少し詳しく聞かせてください。 (野沢) 自分がどんな価値観を背景に意思決定を行っているのか、きちんと語れるものがないと経営層を説得して事を成し遂げるところまで持っていくことは難しいと思います。「軸が必要」ということですね。 (小峯) 判断する際の拠り所のようなものですね。 (野沢) もちろん“視野は広く視座は高く”、とよく言われますが、それとは別の哲学みたいなものを持てるかどうかですね。先日の「新任部長研修」のゲスト講演でもベンチャー企業を立ち上げた経営者の話から、それを感じることができました。事業が発展してきたことだけではなく、さまざまな戦略の裏に、その経営者が持つ価値観や軸を学びとることができるセッションでした。 「人間力」はいろいろな定義がありますし、様々な方が持論を持たれていますし、私も「これだ」と決め込んだ考えには至っていません。ただ、“自分の軸を持って話せる人”というのは、何かを持っているように感じます。

今後の「新任部長研修」をどう発展させていくか

(小峯) これから「新任部長」の方をどうしていきたいか、研修に期待されることなどはありますでしょうか? (野沢) 基礎講座的なプログラムの部分についてはJMAにプログラム企画をお任せしてからもう7年も経過しており、当社の組織風土、強いや弱みも踏まえながら展開していただいてます。付け加えるとしたら、自社課題研究のパートがやや近視眼的になっているような感じがします。もう少し中長期的な視野で考えられるテーマを選定して取り組むようにできればと考えています。実務においても、中長期的なことを考えることが苦手なのは、共通点ですからね。 (小峯) それは御社だけの話ではないように思います。多くの会社で組織が短期の成果を求めています。 (野沢) 短期と中長期の両方を同時にやろうとしてもなかなか難しいと思いますが、折角の機会ですので、もう少し“夢”があるような自社課題研究をできないか、と考えているのです。 (小峯) なるほど、この課題を提案することが社会に対してどんな意味を持つのか、社会にあるどんな課題を解決するのかを考えていくと、検討するテーマのレンジが広がるような気がします。御社の中での既存リソースをどう活用したら会社のビジネスが良くなる、という検討ももちろん重要なのですが。 (野沢) 新事業や社内改革などをテーマとした自社課題研究というのは、別に実施する手もありますね。それをやっていくのだったら、もっと本腰を据えて別にした方が良さそうです。 (小峯) 発想を飛躍させる場をつくらないと、どうしても短期の話になり、これは自社ではできないということになりがちですよね。 (野沢) この研修は、最終的には経営陣にプレゼンテーションをしますから、実現性や具体性がある程度問われています。 「自由度を上げて広い視野で検討することに学びがある」ということを重視すると、やはり「今のプログラムとは別にやるべき」という声が出るようにも思います。

研修受講者のアセスメントを育成に活かす

(野沢) これはまだ検討中のことですが、研修受講者のアセスメントは重要だと思いませんか?対象者を客観的に見てどうか判断するとなると、継続的に観察する人が必要です。一人の講師がプログラムを運営しながらアセスメントもできるものでしょうか? (小峯) アセスメントにはいろいろなやり方があります。個人ごとの特性・傾向を知り評価したいのか、それとも個々人の育成のために強み・弱みを明らかにしたいのかを明確にしたうえで活用されるといいでしょうね。 また、育成目的で、研修と絡める場合には、研修のスタート前に360度評価を行い、自分の強み、弱み知ったうえで研修に臨んでもらうのも良いかもしれません。講師がアセッサーの役割を担う場合は、その評価結果をもとに、今のディスカッションではこういう部分が発揮できたと一人ひとりの行動を確認していくわけです。 (野沢) ミドルマネージャーまでの研修だと、そういうプログラムも一部ありますが、部長層にふさわしいかどうかというのは迷っているところです。 (小峯) JMAが実際にご支援している他の企業の例ですが、部長昇格研修で、最初に対面診断をしてそのフィードバックを受けて研修期間中に自分の強みと弱みを明らかにしています。結果をもとにアクションプランを進めていきますし、講師の方は診断結果やアクションプランを参照しながら本人の変化をレポートにまとめていきます。 このレポートは、人事との研修後の面談にも参照されているということです。もちろん、社内の目がまずあって、その補助資料とする感じでしょうか。 (野沢) そんなものも良いかと思っています。 (小峯) アセスメントを最近導入している企業は、人材の強みや弱み、成果などを、これまでより客観的に“見える化”したいというニーズがあるように思います。御社と同様に、アセスメントを求めている企業は増えていきそうです。

企業風土を変えていくためのチャレンジ

(小峯) 私どもだけでなく、いろいろな教育・研修機関が御社の支援に関わられていると思います。“こういう部分について特に日本能率協会に期待している”、ということがあれば、お教えいただけますか。 (野沢) 研修はやはり「講師の質」に拠るところが大きいと考えています。その点では、日本能率協会は質の高い講師が多いように感じますね。 また、企業風土を理解している講師やスタッフに担当してもらうのと、理解なしで始めるのでは随分違うでしょう(小峯) 一方で、新しい風もどんどん御社の中に吹き込んでいかなくてはいけませんよね。 (野沢) 例えば「新任部長研修」の自社課題研究のときに毎年、「破れない壁」のようなテーマがあるようです。だとしたら、その課題に正面から取り組むのもいいのではないでしょうか。 その壁を打ち破るイノベーションを問いかけてみて、企業風土自体を変えていくようなところにテーマを持っていっても良いと思います(小峯) 新しい試みですね。今回お話を伺って、改善のヒントをたくさんいただきました。本日はありがとうございました。 関連ページ ・次世代経営者・経営幹部育成