サントリー食品インターナショナル
人事部から選抜されたシニア社員が若手社員の相談に乗ったり、管理職へのアドバイスを行う「TOO」というポジションを設け、社内コミュニケーションの支援活動を行っているサントリー食品インターナショナル株式会社様。2021年4月、そのTOOがZ世代とのコミュニケーションを学ぶために開催された研修について、サントリー食品インターナショナル株式会社 管理本部の坊暁子様、そしてTOOとして研修に参加されたサントリーフーズ株式会社 首都圏支社 企画部 企画一課 専任部長 田籠宗敏様、サントリー酒類株式会社 広域営業本部 専任部長 加藤修様に、その狙いや成果、ご感想をうかがいました。聞き手は日本能率協会(JMA)の井阪康明です。(本文中敬称略)
シニア社員が務める「職場の見守り役」
(井阪)
まずTOOとはどういった存在なのかを教えてください。
(坊)
TOOとは、「となりの・おせっかい・おじさん/おばさん」の頭文字をとった名称で、いわば職場の見守り役です。それぞれ担当の部署やチームを任されており、正式な役職とは別に、コミュニケーションのほころびを見つけ、ケアをする役割で役職勇退後のシニア社員が務めています。
始まりは2011年、関西にあった食品部門(サントリーフーズ株式会社)の3つの支店が統合されて近畿支社となり、東北から支社長が着任した際、旧支店長だった3名が、土地柄に慣れない支社長をサポートしようとコミュニケーションのつなぎ役を買って出たことでした。2014年に正式に制度化され、2018年には酒類部門(サントリー酒類株式会社)でも活動がスタートしています。
(井阪)
田籠さんは食品部門(サントリーフーズ株式会社)で、加藤さんは酒類部門(サントリー酒類株式会社)で、それぞれTOOを務めていらっしゃるとのことですが、具体的にはどのような活動をされていますか?
(田籠)
私は、食品部門首都圏支社の170人を対象にTOO活動をしています。定期的な面談を行っているのは、新入社員、独り立ちする2年目の社員、異動直後でサポートが必要になりそうな人が中心ですが、その他にも、様子を見ていて気になる人がいれば「どんな感じ?」と声をかけるようにしています。
(加藤)
私は広域営業本部15人の面倒を見ています。規模も職場風土もそれぞれ違うので、活動内容も違いますが、TOO自身がみなマネージャー経験者ということもあり、マネージャーになったばかりの人のケアもやっています。
(坊)
基本的には「おせっかい活動」なので、何かやるべきことが決まっているということではなく、その人の「焼きたい世話」を焼くという形なんですね。ちなみに『TOO』という名称はその活動に実際に触れた社内の若手社員が命名したもので、活動内容をよく表していると思います(笑)。
コロナ禍に端を発するコミュニケーションの危機に備えたい
(井阪)
今回の研修については、どのような課題感から企画されたのでしょうか。
(坊)
幸いなことに、とくに若手社員の離職に悩んでいるというような課題はないのですが、コロナ禍でリモート主体の働き方になったとき、「今こそ一度しっかり社内メンバーとのコミュニケーションについて考えておくべきときなのではないか」と感じました。その中で、せっかく機会を設けるのであれば、「社内で最も上の世代であるTOO」と「社内で最も下の世代であるZ世代」の相互理解を支援できるとよいのでは?と考えたのが出発点です。 コミュニケーションの形が変わった今、そこにはきっとほころびも生まれます。そんなほころびに気づいてくれるのがTOOという存在なので、その方々に改めて理解を深めていただければと考えたのです。
(井阪)
TOOのお二人も、リモート環境が活動に与えた影響はお感じですか?
(田籠)
リモート環境では、人の「顔色」を見る機会がないので、やはり影響は大きいですね。チャットで若手社員に話しかけて様子を聞いたりもしますが、対面環境で気づくことが100だとしたらせいぜい60くらいという感触です。「AさんとBさんが話している様子を近くの席でうかがう」といった形で気配を察知できないので、気づけないことは多いと感じます。
(加藤)
私のところでは今、課単位では毎朝、部単位では月2回朝礼があり、顔を見ることはできるので、そのときの発言や表情を見て声をかけることはしているのですが、「ニオイで気づく」ようなことができないんですよね。コロナ禍以前には、電話に聞き耳を立て、「得意先とうまくいっていないのかな?」と感じる局面もありましたが、そういう機会も持ちづらくなりました。
(坊)
その影響がこれからいろいろ出てくるのでは?と気になっていて、それでこのタイミングだったということもあります。
(加藤)
コロナ禍初期は、若い人も、先輩の仕事に聞き耳を立ててやっていたことができなくなった不安を訴えていたのですが、最近はそういう不安をあまり聞かなくなりました。ただそれは、「リモートでもうまくコミュニケーションが取れるようになったから」なのか、「コミュニケーションが取れていないことに気づかなくなっているから」なのかがわからないのです。若手が学ぶべきことを吸収できる範囲が狭くなっているのだとしたら大きな問題だと感じます。
(田籠)
まさに「ここから」が問題なんですよね。自分が所属する部署なら、たとえオンラインであっても、朝礼などで顔を合わせる機会があるからよいのですが、「他部署とのコミュニケーションとなると難しい」ということはすでに共通認識となっています。
TOOとはどんな人たちか?を理解したうえでコンセプトを絞る
(井阪)
実際に研修の方向性や内容を決めるにあたり、課題となったのはどんな点でしたか?
(坊)
そもそも「TOO」は弊社独自の制度なので、JMAさんにも「TOOとはどういう役割なのか」「何を期待されているのか」といったところをご理解いただく必要がありました。まずここを真摯に聞いてくださったのはありがたかったです。
また、TOOはZ世代の社員ともよくコミュニケーションを取っていて、彼らのことをよくわかっている人たちでもあります。その人たちに何かを「教える」ということは、ともすれば釈迦に説法になりかねません。実際、こういう研修をやろうとしていると伝えたときには、「世代をひとくくりにするような話なら聞きたくない」という声も出ました。ちなみにその声はそのままJMAさんに伝えましたが(笑)、そうした課題についてもよく理解していただいたうえで、一緒になって企画の内容を考えることができたと感じています。 最終的に、Z世代をテーマとしつつも、「Z世代は一般的にこういう人たちなんですよ」という一概に決めつけてしまうような内容ではなく、Z世代が育った社会的背景や一般的にみられる特徴を丁寧に理解したうえで「違う考え、違う育ちの社員が関わるとき、どういう問題が起こりうるのか」を中心に据えることで、TOO活動に活かしていただける内容になったのではないかと思います。
研修全編がこうしたコンセプトで組み立てられていますが、たとえば「今年の新人になりきって考えてみよう」というパートを設け、「今年の新人像」として、友人関係や両親、SNSの閲覧状況などまで細かく設定し、彼らと自分たちの違いを考えたり、彼らがどのような思考・行動を取りやすいのかを考えるワークを導入したのもその一例です。
研修が、Z世代を知り、自分を知り、同じ思いを共有する場に
(井阪)
実際に研修に参加した側としてはどのようなご感想をお持ちでしょうか。
(田籠)
Z世代という言葉は知っていても、彼らに関してどのような現象があるかまでは勉強していなかったので、そういう意味でとても参考になりました。ですがそれ以上に重要なのはやはり個人個人の事情だと思うので、研修内で扱った「傾聴」とか「周囲を巻き込んで育てていく」というようなポイントがとても役に立ったと感じています。
(加藤)
TOOに就任するときにはとくに研修なども受けずにいきなりなるのですが、案外「聴く」技術で苦労するんですね。それまではマネージャーで、「聴く」より「言う」立場であったせいだと思います。実際は、面談していきなり「実は」と話してくれる人なんていないから、いろんなところにボールを投げてみて、反応を引き出していく必要がある。そのためにはやはり、「世代」として理解することも助けとなると思いました。
(田籠)
一概には言えないですが、Z世代の人たちは「自分がいかに成長できるか」強いこだわりがあり、そこが、人との競争の中で育ってきた自分たち世代との最大の違い。そのことは活動の中でなんとなく感じていましたが、研修で整理された感じがあります。
(加藤)
面談していると、そうした特性を個人の特性のように感じてしまい、「何なんだコイツは!」とイライラしてしまうこともあるのですが(笑)、これはジェンダー、国籍、年齢などと同じように、多様性として考えるべきこと。それを受け入れるためには「我々とは違うんだ」というところからスタートする必要がありますが、その違いがそれが世代によるものなのだと今回の研修で改めて感じたことで、面談もしやすくなりました。
Z世代をはじめ相手のことを理解するということの一方で役に立ったのは「自分の考え方を理解する」というパートです。たとえば面談中にイラッとする理由なども、自分の思考が理解できていると納得できる。相手世代と自分の思考の両方を理解することで、ようやく話が噛み合うのだとわかりました。
(坊)
研修に参加された皆さんがここまで受け取ってくださっていたとはありがたい限りですね。
職場ごとに規模や風土も違うとのことですが、その中で皆さんが一緒に研修を受けられたことについてはいかがですか?
(加藤)
同じTOO同士であっても「えっそう考えるの?」と驚くようなこともありました。ですが、「TOOとしてのやりがい」というセッションでは、いかに「根っこが同じ」かも感じたんですね。みんな若いメンバーを見守りたい。離脱してしまうメンバーを出さないための最後の砦でありたいんです。
というのも、マネージャー経験者として誰もが心に傷を持っていると思うんです。部下に対して「あのときああ言ってあげればよかった」という苦い記憶が誰しもある。TOO同士そういう共感を持てたのもよかったのではないかと思います。今回の研修ではそういった意見交換の時間も多く設けられていたので、参加者同士で刺激し合うことができました。
コロナ後の新たなコミュニケーションに向けて
(井阪)
研修を経て、TOOのお仕事の中で何か変化はありましたか?
(田籠)
研修後の6月に1年目、2年目の社員9人をオンラインで面談しました。「まず個人の顔を見るのが大事」という考えは変わりませんが、傾聴のポイントや世代特性など研修で整理されたことを頭に入れながら面談することで、相手の話に自分が「えっ」と思ってしまったときも「これか!」と冷静に捉えて進めることができました。
(加藤)
これは若手に限ったことではないんですが、研修で「承認欲求」について学んだことを念頭に、朝礼のとき、誰かの発言を取り上げて話すように変えてみました。何かを伝えるとき、「さっきAさんが言ったように、○○って大事だよね」と、Aさんの言葉として取り上げるんです。言われた本人は照れくさそうにしていましたが、嬉しいと思うんですね。
もう一つ、面談以外にも活動を広げてみようかなと思っています。若手の営業に同行し、同じものを見て一緒に考える。私の担当が小さな組織だからできることですが、こういう時代だからこそ、時間をかけたコミュニケーションに踏み込んでみたいですね。
(井阪)
今後の社内コミュニケーションについては、それぞれのお立場からどのようなことをお考えでしょうか?
(田籠)
正直、今後についてはわからないことばかりです。コロナ禍による特殊な状態が続いたことで、コミュニケーションのどんな部分が欠落したのかもまだわからないし、勤務形態がこの先どんな形に落ち着くかもわかりません。
(加藤)
全員が出社に戻ることはないと思うんですが、かといって100%リモートに戻ることも考えにくいという中で、お酒で言うと「ハーフ&ハーフ」のコミュニケーションをどう作っていくかが問われていると思います。
(坊)
今までは深く意識せず、「顔が見えて声が聞ける」ことをコミュニケーションだと思ってきましたが、それが本当にコミュニケーションなのか?ということも問い直していく必要があるかもしれません。
(田籠)
繰り返しになりますが、相手を理解するための心構えとして「世代」への理解は重要ですが、それ以上に「個」。先が見えない時代だからこそ、今まで以上に丁寧に個を見ていきたいですね。
(坊)
TOOの活動は人事主導ではなくあくまで現場のもの。人事として唯一できるサポートが今回のような研修を行うことなので、今後も何ができるかをしっかり考えていきたいですね。コロナ禍が落ち着いたら、一度立ち止まってこの状況を振り返るような場も作っていきたいと思っています。
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