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住友重機械工業

公開日:2022/01/14 更新日:2023/12/08

2020年、これまでの研修体系を見直し、より体系的な階層別研修の構築に着手された住友重機械工業株式会社様。制度刷新の中心人物である人事本部人事戦略部人材開発グループの近藤章様に、その取り組みについて伺います。

新たな研修制度がスタートした2021年度は、より多段階な階層別研修と、より幅広い人に教育機会を提供する「公募型研修」を実施。今回はとくに、新たに管理職に昇格した人がマネジメントを学ぶ「新任経基職研修」を軸に、事前の課題とそれに対して得られた成果をお聞きしました。

聞き手は日本能率協会(JMA)の齋藤洋平です。(本文中敬称略)

早い段階の教育で、人を育てる「意欲」からまず養いたい

(齋藤)
2021年度から研修制度を刷新し、新任経基職研修でマネジメント研修を実施されました。これまでこの層について感じられていた課題はどのようなものでしたか?

(近藤)
 当社は技術者の多い会社です。技術者の業務は一人で完結する部分も多く、社員のキャラクターという面でも、「自分ひとりでこつこつ作り上げる」ことにモチベーションを感じる人が多い傾向にあります。また、当社は20年程前までは業績が非常に厳しい状況にありましたが、各部門、各機種の採算管理を徹底、赤字を絶対に許さないということで、現在は比較的安定して収益を生み出せる体質になりました。採算性や効率を追求する負の側面として、組織全体として「人を育成する文化」がやや希薄になってしまったことも課題でした。

 本来「経基職」は、自分で成果を出すだけでなく、チームとして成果を出すことを考えなければなりません。しかし、経基職になってすぐに部下を持つ人は少なく、そういう人は目標設定や評価にも関わりません。そんな事情もあり経基職クラスでは、マネジメントに関するスキルはもちろん、マネジメントへの意欲も高くない人が多いのが実情で、まずはマインドから整えていく必要があると感じていました。

 研修制度についても課題がありました。これまでの制度では、コミュニケーションやコーチングなど人との関わり方について学ぶのは、経基職に昇格して部下を持つ「マネージャー」になってから。経基職のなかには、自分で本を読んだり、上司の背中を見たりしながら、チーム運営に取り組んでいる人もいましたが、体系的に学ぶ機会は用意されていなかったのです。

 こうした状況を改善するには、一般社員のうちに「人を育てる」「人を動かす」ということを学ぶ機会を用意しておくほうがよいとの考えから、今回新たに経基職にはマネジメントを学ぶ研修を設けたのです。マネージャーになってから一気に多くのことを学ぶのではなく、階層別に段階的に学んでおくことで、将来マネージャーになったときによりスムーズに業務に当たってもらえるようにしておきたい、という狙いもありました。

充実した事前課題で、研修当日の密度が上がった

(齋藤)
実際の研修内容についてはどのように決めていかれたのでしょうか。

(近藤)
 まずはこれまでにお話したような課題感をJMAさんにすべてお伝えしました。全社的に人を育成する文化が醸成されていないこと。経基職にはチーム運営という役割が求められるが現状そこへの意識が薄いこと。そのため、まずはマインドを整えることが必要であると考えていること。こうしたことを踏まえつつ「何か実践力を高める仕掛けがほしい」ということをお話しし、講師と一緒に内容を検討しました。 

 上がってきた提案内容でとくに印象的だったのは、研修前に取り組んでもらう事前課題が、こちらが思っていた以上に多かったことです。具体的には、問題発見、問題解決、チーム運営、人へのアプローチなどについて、日頃感じている課題を書き出してもらうなどするものでしたが、1課題あたり20分~30分かかりそうな内容が全部で8つ用意されていて、参加者には事前に34時間程度課題に取り組んでから当日を迎える形になっていました。事前にここまで取り組んで置くことで、当日は、講師からのインプットは控えめに、ディスカッションやグループワークに多くの時間を割くことができました。

 緊急事態宣言下のため、研修はオンラインでの実施となりましたが、こうした工夫のおかげで「講師から教わる」のではなく、「参加者が考え、積極的に発言をしながら学んでいく」という濃密な時間になったと思っています。

本音でぶつかってくれた講師に感謝。ロールプレイで得た気づきとは?

(齋藤)
研修のなかで印象に残ったことなどはおありでしょうか?

(近藤)
 今回の研修は、グループ21社の合同研修だったので、集まっている人のキャラクターも多種多様。参加者のなかには、コミュニケーション能力があまり高くない人や、「なぜこんなテーマの研修を受講をしなければならないのか」と研修にネガティブな人もいます。人を育てる文化が醸成しきれていない環境で、これまで「単独で成果を出す」働き方でやってきた人にとっては無理もないことなのかもしれません。 

 そんな参加者の1人が、ロールプレイのセッションを「やりたくない」と言い出したのです。部下との対話で、相手の存在や価値を認めるための働きかけである「ストローク」というセッションだったのですが、「自分は嘘は言いたくないので、そういうことはできない」と言うんですね。ハッキリものを言う人が多いのもうちの社風ですし、裏を返せば本気で学ぶ姿勢があるからこその発言で、そういう姿勢で臨んでくれたことは嬉しいことなのですが……。 

 オンラインで当日は約30人の参加者が待機しているなか、その参加者と講師とのバトルは5分ほど続いたでしょうか。ありがたかったのは、本音をぶつけてきた参加者に対し、講師も自分の本音をオープンにして寄り添ってくれたこと。最後は、「今はやりたくないと思っても、なぜ必要かを知るためにまずやってみることに意義がある」という言葉にその参加者も納得し、セッションに取り組んでくれました。 

 終わってみれば、その参加者も「やってみてよかった」と言ってくれましたし、他の参加者も「なぜやるべきか」という学びを得られたのではないかと思います。最後は研修全体に一体感が生まれ、研修後の参加者の表情もポジティブ。「やらなきゃな」と思ってくれている様子が伝わり、アンケートでもそういう声が多数見られました。「今までは部下が挨拶してくるまで自分からは挨拶しなかったが、まずは自分から挨拶をしないとコミュニケーションは変わらないとわかった」という感想などはその代表的なものですね。

 「ロールプレイをやってみたけど、なかなか思うようにできない」「相手の行動を変えるのは難しいと実感した」などの声もありました。こういうことは、周囲から指摘されても「やっています」「できています」で終わりがちなこと。実際にやってみて初めて「できていない」ことに気づくのです。研修ではスキルを身につけることも大切ですが、こうした「気づき」が得られたことが大きいと感じています。

 そうした雰囲気を作り上げてくれた講師にはとても感謝しています。オンラインという環境でも誰もが発言しやすい雰囲気を作ってくれて、相手を否定しないその姿に、アンケートで「見習いたい」と書いた参加者もいました。

複数の新規研修計画を、スピード感を持って進めることができた

(齋藤)
JMAのサポートについてはどのように感じられましたか?

(近藤)
 今回は研修制度全体を見直すプロジェクトでもあり、それらに総合的にご対応いただける規模感を期待してJMAさんにお願いをしたという経緯がありました。

 実際にご一緒してみてありがたかったのはまずスピード感です。今年度は、ここまでお話した新任経基職研修を含め新しく5講座の研修を導入しましたが、年末にプロジェクトを立ち上げて、4月には内容を告知し、8月には実施することができました。公開講座として開催されているパッケージも豊富にお持ちで、それをベースに研修を組み立てられたことも、スピードアップを可能にしてくれたと思います。年間で20講座以上の研修を動かしている身でもあり、つい対応が遅れがちになるなかで、ペースメーカー役を担ってくださったのも助かりました。

 研修内容はもちろん、ツールや手法についてもメニューの引き出しが多く、さまざまな方法を提示していただきました。とくに運営面で効率化できたのがLMS(ラーニング・マネジメント・システム)の導入で、複数の研修を動かすなかでは、こうした使い勝手のよい管理システムのあることでかなり負担が軽減されたと思います。

 また今年度の研修はすべてオンラインでの実施となり、普段社内で使っていないオンライン会議ツール使いましたが、使い方のレクチャーからJMAさんで実施していただき、参加者の不安感の軽減にもつながりました。

次年度は「研修前後の働きかけ」でより一層の工夫を

(齋藤)
今回はオンラインでの開催となりましたが、実施されてみてどうでしたか?

(近藤)
 オンラインにはオンラインのよさがありますよね。たとえばロールプレイのときなどは、対面だと隣のグループの声が聞こえて落ち着かないこともありますが、オンラインなら静かに、集中して取り組めるというメリットもあると感じました。また当社の研修はグループ合同で行うため、遠方からの参加者も少なくないのですが、そういう人が東京に来ると、研修2日間+移動で各1日、実質4日使ってしまうこともあるので、その時間が短縮できるのもメリットです。 

 ただ、やはり「休憩時間にもっと講師や参加者同士で話したい」「飲みに行きたい」などの声もあります。とくにマネージャークラスの研修になるとそれぞれ共通の悩みもあり、研修はそういうことを話し合える場にもなっていますからね。こうしたメリット・デメリットを踏まえ、情勢が変われば、オンラインと集合を織り交ぜた研修を開催していきたいと考えています。

(齋藤)
今後についてはどのようなプランをお持ちでしょうか。

(近藤)
 今年度は、「まずは新しい研修を実施してみた」というところまでですが、来年度以降はこれをよりブラッシュアップしていきたいと考えています。たとえば、階層別研修の連続性をどのように作っていくかなど検討したいと思います。

研修前後の働きかけについても工夫していきたいですね。 たとえば、今回新任経基職研修で行ったような事前課題については、参加者によって取り組み度合いにばらつきがあるのも事実。「なぜ研修を受けてもらうのか」を事前にしっかり伝えるなど、研修を受講する必要性をしっかり理解してもらったうえで、より真剣に取り組んでもらえるような工夫をしていきたいです。 研修後については、現在は1週間後に「アクションプラン宣言」を提出し、6か月後にはその「宣言」を振り返って人事にレポートを提出してもらうことになっていますが、これを具体的な成果に結びつける取り組みを実行したいと考えています。

 新任経基職研修については、より効率よく学べるように2日間の時間配分を変えるなど、すでにアイデアもあり、JMAさんにもお伝えしています。まずは順調なスタートが切れたので、この研修をより意義深いものにするために、今後もお知恵を借りられればと思っています。