階層別研修i-stratified-training

向井建設株式会社

公開日:2022/01/19 更新日:2023/09/08

2016年に人材開発部を立ち上げ、より理想的な人事制度を目指して改革に取り組んで来られた向井建設株式会社様。なかでも2020年から始まった階層別社内研修は、人材育成制度の柱となる取り組みです。 新たなスタイルで人材育成に取り組むにあたり、ビル建設やインフラ工事の現場で施工に携わる建設業ならではの課題、その解決に向けた研修制度の設計、そしてそれらの根本にある考え方について、 ムカイホールディングス株式会社代表取締役専務の向井隆晃様、向井建設株式会社取締役総務部部長兼人材開発部部長の山本恭弘様、人材開発部人材育成課課長の山(やま)寛様にお聞きしました。(本文中敬称略)

「見て覚えろ」から早期育成へ、人材開発部を新設して制度を整える

(インタビュアー)
まずは簡単に、皆様がどのような形で人材育成に関わっていらっしゃるかをお聞かせください。

(向井)
6年前に人材開発部が発足した際、部長に就任し、グループ全体の社員育成にあたってきました。昨年10月からはムカイホールディングス取締役として、グループ全体の人材配置を統括しています。

(山本)
向井専務のあとを引き継いで人材開発部部長に就任したのが私です。弊社の人材教育は部門ごとにも行っていますが、それを全体で取りまとめ、グループとして全体を結びつけ、筋を通す役割を持つのが人材開発部。私自身はこれまで、建設現場、バックアップ部門の両方を経験してきましたが、どちらの部門でも人材育成に関わり、ずっと「モノづくり」ならぬ「ヒトづくり」に興味を持ってきました。このたび部長に就任して、より本格的に人材開発に取り組むことになった形です。

(山)
私は2020年4月より、人材育成課課長として会社全体の教育に携わっています。具体的には、研修事務局として直接JMAさんとやり取りしながら、研修内容を決定するなどしています。

私自身はとび職として20年働き、その後は現場での労務管理や新入社員教育の講師を務めてきました。人材育成課の発足にあたり、チームメンバーに選ばれたのもその経験を買われてのこととは思いますが、自分自身が新任課長として研修を受講する立場でもあり、企画者と受講者両方の気持ちがわかると思っています。

私が現場から人材育成課に移り、新任課長研修を受講してみて感じたのは、「あるべき人材像」の違いです。これまでは技能系社員として、職人の視点で人材を捉えていたのが、今はより高い視点で考えるようになりました。たとえば人との接し方やビジネススキルなどについても、現場独自のやり方では対外的には通用しません。自分自身も「向井建設の課長はこうあるべき 」という人材像を理解したうえで、同様のメッセージを全社に伝えていく必要があるのを感じています。

(インタビュアー)
人材開発部は6年前(2016年)に新たに立ち上げられたとのことですが、なぜこのタイミングでの立ち上げとなったのでしょうか。

(向井)
2009年に現社長が就任して以来、打ち出しているのが「理念浸透型経営」という考え方ですが、その中に「企業存続の基盤は『人』であり、個人の強みと協働による力が最大発揮される人材マネジメントシステムを確立する」という項目があります。「モノ」を作る製造業などと違って、建設業には「人」しかありません。何か他社と明らかに違う特殊技術があるというわけでもない。その中で選ばれるには、やはり人、さらには組織力や、協力会社との関係に基づく動員力が問われ、そうした組織を管理できる社員と、着実に業務を遂行できるチームが欠かせないというわけです。

 こうしたことを高いレベルで実現できる人を採用・育成・評価・配置するために立ち上げたのが人材開発部です。具体的には採用、評価、配置を管理する人事課と教育を担当する人材育成課でスタートし、現在は報酬に係る給与課が加わり人材開発部を構成しています。それに経営企画広報課にも協力を依頼しています。広報課は、建設業界の魅力を社内外により広く深く理解してもらうための情報発信機能が欠かせないとの考えからです。

(インタビュアー)
人材開発部の誕生により、人材育成の考え方についてはどのように変わりましたか?

(向井)
人材育成制度そのものは以前からあるのですが、全社的に体系化はされていませんでした。そのため一部の社員から不平や不満の声が聞こえており、人材流出の防止とやりがいや満足感の向上が課題となっていました。つまり、評価やそれに見合った給与と紐付いていない部分があったのです。これを体系化することで、評価とも合理的に紐付くシステムを確立させ、人材の定着向上を目指しました。

 世の中全体を見ても、労働人口が減少するなか、限られた人材をいかに育成するかが問われています。これまで職人の世界は「10年で1人前」と言われてきましたが、今はそんなに時間をかけてはいられません。そのためにも早期に戦力化を図る体系的な育成制度の整備が不可欠でした。

(山本)
建設業は長らく、「見て覚えろ」「技は盗め」で成り立ってきた世界です。ですが当然、これでは早期育成は達成できません。育成制度を体系化し、各階層に応じて適切な教育を施すことで、早期育成の実現を目指しています

 同時に、「人を育てられる人を育てる」ことや、「時代に合った育成」を推進するためにも、今までとは体制を変えて臨むことに意義があると考えています。

「向井建設としてあるべき人材」は、自らの手で育成したい

(インタビュアー)
研修体系の整備に着手された際、感じていらっしゃった課題感をお聞かせください。

(向井)
これまでに行ってきた研修としては、主に建設産業全体に向けた広域的職業訓練施設、「富士教育訓練センター」の専門教育プログラムと当社独自の教育カリキュラムで実施してきました。しかし、「理念浸透型経営」に沿った仕事をする人材の育成を外に任せているわけにはいきません。つまり「なぜ私達は求められているのか」「私達が取り組む安全や品質とは何か」といったことを、伝えていく仕組みを作る必要がありました。

(山本)
建設業は「同じものが完成すればよい」ではなく、プロセスが重要です。
「経営理念に向かって仕事をできたのか」「社員一人ひとりがそれを意識できたのか」を考えてもらうためには、研修もその部分を踏まえたものになっている必要があるんですね。

(山)
ちなみに、現在も新入社員研修では富士教育訓練センターを利用していますが、業務に必要な資格取得以外のプログラムは自社で開発した内容とし、建設業の変化に合わせて毎年ブラッシュアップして実施しています。

 また、社員評価のもとになる「全社共通等級基準書」と教育を連動させる見直しを行いました。それぞれの等級で求められる能力を満たすための研修を本格的に導入しました。実は20年ほど前から、社外の研修サービスや通信教育のメニューを用意する形で新任研修は行われていましたが、あまり一貫性のあるものではなかったため、新たに整備された等級基準に合わせ、求められる要素を満たすための研修を行っています。

研修で「気づき」を与え、その後のフォローで定着させる

(インタビュアー)
現在JMAでは、部長、課長、係長、S(シニア)-1、S(シニア)-2について、新任時の階層別研修をお手伝いしています。ここまでの手応えや、研修を実施するうえで留意していることについてお聞かせください。

(山)
弊社としてのJMAさんとの出会いは、JMAさんが主催する部長・課長向けの公開研修を利用したことでした。その後社内で、管理職教育へとつながる形で一般職教育も展開する「1本の軸がとおった全社的人材育成」に取り組むという方向性が固まり、改めてJMAさんに弊社の状況に合った研修プログラム企画についてご相談したという経緯です。例年昇格者人数が多い階層の研修や、弊社向けに内容をカスタマイズいただいた研修は、講師派遣型の社内研修を実施するという流れができています。これにより、当初からの目標であった「向井カラー」も出せるようになってきました。

もう一つ、社内研修のメリットとして感じているのは、同時期に昇進・昇格した、いわゆる「階層同期」との切磋琢磨が可能だという点です。公開研修では、各階層に求められる基本的な役割などは他社と共通の部分もあり、勉強になります。また、公開研修でもまかなえる部分はあります。他社の同階層の方々との出会いなど、公開研修ならではの刺激もあります。しかしながら、社内研修で社内の階層同期とともに気づきが得られる事は公開研修では得られない貴重な機会だと感じました。 

様々なより有効な社内研修の有り方を模索してきましたが、現在は研修対象人数が一定に達すれば講師派遣型の社内研修を行うというスタイルが確立できています。

(山本)
研修の目標は、先ほどの話にも出たように、「全社共通等級基準書」にある「あるべき姿」になってほしいということです。ですが、研修を受ければ必ずそうなれるのであれば苦労はしません。技能技術も、資格取っただけでは何もできないがそれと同じ。車にたとえれば、JMAさんは教習所であり、研修でできるのは「免許を取る」レベル。車を安全に乗りこなすには社内で何をするかが重要で、そこにはまだ課題がありますね。

そんななかでも意識していることといえば、まずは「主催者側の思い」を伝えるということです。「なぜこの研修を受ける必要があるのか」「あなたにとって何がプラスか」「会社にとって何がプラスか」「何を目指して受けてもらうのか」といったことをしっかり伝える必要があると思っています。

もう一つは実施後のフォローです。研修の内容を自分のものにするには、「この1週間になにをやったか」「研修と照らし合わせてどうだったか」を振り返るなど、OJTOFF-JTを結びつけることが大変重要ですが、学んだことをどう業務に落とし込んでいくかということは、なかなか一人ではわかりません。 

実は私自身、昔受けた研修についてはあまり内容を記憶していなかったりもしますが(笑)、今回新任部長研修とその後のフォローアップ研修を受けてその違いを痛感しました。現在、フォローアップ研修を設けているのは部長研修、課長研修のみですが、係長、S-1S-2についてどうフォローしていくか。研修を受講した後、1年間フォローを継続することで一過性にしない目的もあり、この階層のフォローまでお任せしてしまうのは違うのではないかと思いつつも、自分たちでやるとなると大変でもあり、どう取り入れていくかも今後考しっかりえていきたいと思います。

(向井)
研修を通して社員に一番感じてほしいのは「気づき」です。自分がどうなりたいのかにまず気づいて、理解すれば、それが日々の行動に反映され、その行動を繰り返すうちに習慣になり、さらには人格までも変わっていくのです。最終的には、社員がそういう深みのある人間になってくれたら嬉しいと私は思います。

全体像を見渡しながら各階層の研修を設計できるのがメリット

(インタビュアー)
JMAと研修を作っていくうえで、メリットと感じていらっしゃるのはどのようなことでしょうか。

(山)
現在、階層別では部長からS-2までの研修を実施していますが、人材育成の「全体像」を意識しながら、各ステップで押さえておくべきことを打合せていけるのはありがたいですね。「この段階でこういうことを学んでほしい」「そのためには、その前にこういうことを学んでおいてほしい」ということを、研修が始まる前はもちろん、すべての研修が1サイクル終了したあとの振り返りでもきちんと話し合って次に活かせるのはとてもよいと思っています。

 また、講師の選定にもこちらの要望をしっかり聞いていただき、当社の「全社共通等級基準」についてしっかり理解をしていただいた上で臨んでいただけています。もちろん、建設会社としての特性も、プログラムに十分反映していただいています。

 また、弊社は北海道・東北に関連会社があり、平時には東京本社で集合研修を行っていたのですが、コロナ禍中には困難だということで、オンライン研修にも取り組みました。そんな初めての試みについても、滞りなく運営していただくことができました。

 オンライン研修では、関東の社員は千葉県市川市にある研修会場に集まり、北海道・東北など遠方の社員にはオンラインで参加してもらいました。私自身が参加した課長研修もオンライン研修で、私は会場での参加となりましたが、遠方からの参加者ともこんなに自然にやりとりできるのかと驚いたものです。オンラインの参加者2名と取り組んだグループワークにも、全く違和感がありませんでしたね。

 実は、研修会場はネット環境があまりよいとはいえなかったのですが、その中でスムーズな運営をしてくださったことには感謝しています。講師もオンライン慣れしていて、オンライン受講者に声が届かないなどのトラブルもありませんでした。問題があるとすれば、会場の発表者がオンライン研修に慣れておらず、発表の声が遠方に届きにくかったことくらいでしょうか。

 フェイスツーフェイスの対話は重要だと思うので、コロナ禍が収束したら可能な限り集まって研修を行いたいとは思っていますが、遠方参加者のための選択肢として、よい経験が積めたと考えています。

基本は「社員愛」。社員がやりがいを感じれば会社も伸びる

(インタビュアー)
今後、JMAにどんなことを期待されていますか?

(山本)
現状で提供いただいている階層別研修はS-2~部長までですが、今後は新入社員~経営層までの一気通貫をどう実現するかを考えていきたいですね。そして、「『なぜこうするのか』を、理解するだけでなく納得、腹落ちしてもらう」という点について、適切なアドバイスをいただきたいと思っています。現状の研修を、より一層個人の成長や仕事のやりがいに結びつきやすい研修にするためにどう構築していくか、その手腕に期待しています。もちろん、私達自身も当事者として頑張る必要があると思っています。

(向井)
一つ一つの改善点は、各サイクルが終わるごとにJMA様と事務局が課題と次回の改善策を検討していますので、それがどう反映されていくかを楽しみにしています。

(インタビュアー)
最後に改めて皆様の人材育成ポリシーをお聞かせください。

(向井)
「企業は人なり」。これにつきます。

(山本)
人材は花と同じだと思うんですね。適当な時期に適切な手入れをしないときれいな花が咲きません。社員に対する愛情を持って、適切な教育を意識していきたいと思っています。

(山)
粘り強く、諦めずに取り組んでいくことですね。現場で新入社員研修を担当した経験から思うのは、若い社員の中には簡単に諦めてしまう人もいるということです。でも、自分も諦めずに育ててもらったからこそ今がある。18歳の段階では手先の器用さや頭の回転で優劣がついてしまうこともありますが、学習と経験を積み重ねていけばどこかで成長の上昇カーブが来る。そう自分に言い聞かせながら育成に臨んでいます。 

階層別研修についてはまだ始まったばかりなので、「研修の変化でこんなに社員が輝いてきた」という例を積み重ねていくのもこれから。まずは自分自身が、向井専務や山本部長に「変わったな」と思ってもらえるようにならなければいけませんね!

(向井)
人は「気づいた」瞬間から変われるものです。私達が与えてあげられるのは、そこにたどり着くための「気づき」です。OJTOFF-JTそれぞれにおけるセルフディベロップメントのきっかけを提供し、人生を送る中で幸せなやりがいを感じられる環境を整えてあげられればと考えています。会社の基本は、その人の成長を喜ぶ「社員愛」だと思うんですよね。

 人は慢心した時点で成長が止まりますが、やりがいを感じることができればすぐにでも伸びることができる。それが、よりよい会社を作ることにつながると考えています。