コラムcolumn

メンタルヘルスで組織を強くする

研修の最前線で活躍する講師へのインタビューを通じて、人材育成について考えるシリーズ。
過労や職場環境が原因でうつ病などの精神疾患を発症したとして、2014年度に労災認定された人は497人(前年同比61人増)に上り、過去最多を更新したことが、6月25日厚生労働省の集計で分かりました。また、2015年12月から、改正労働安全衛生法に基づき、従業員数50人以上の企業には「ストレスチェック」が義務づけられるなど、企業側は従来以上に、従業員の職場環境の改善をすることが求められてきます。そこで、今回は、「組織と人の活性化」を専門の一つとする羽地朝和氏(日本能率協会専任講師)に、「メンタルヘルス」という切り口から健全な職場づくりについてお話を伺いました。

vol.1 メンタルヘルスは本人だけの問題なのか?

―羽地さんが、メンタルヘルスに携わるようになられたきっかけや、企業の取り組みについてお感じになられていることをお聞かせください。


(羽地)
私は、日本能率協会の専任講師として、主に、マネジメントやリーダーシップの研修を中心に活動していますが、それと同時に、2つの精神科の病院で、週に1回ずつ、グループセラピーを行っています。

ここ最近は、マネジメントとメンタルヘルスという2つのテーマが、重なってきていると感じています。20年前は、企業の中でもほとんど、メンタルヘルスというテーマでの研修はありませんでしたが、実際のところは、精神科の仕事では、クライアントの多くが企業の方々でした。しかし、企業側は、メンタルヘルスは本人の問題だからといって、このテーマに対しては、腫れ物にさわるようにしていた企業が多かったように思います。まだ経営上の課題として認識されていなかったのかもしれません。

しかし、様々な調査または自分の経験からも、メンタルヘルスの不調者が多くでる職場と、そうでない職場があることがわかります。つまり、メンタルヘルスは、本人だけの問題ではなく、職場のマネジメントや環境が関係しているということです。マネジメントや環境を変えることにより、メンタルヘルス不調の予防ができるはずだと思います。また、職場復帰もそうですが、休職していた人の復帰が上手くいっている職場と、上手くいかずにまた休職を繰り返してしまう職場があり、やはりこれも、風土や環境ひいてはそれに大きな影響を及ぼすマネジメントのテーマと言えると思います。

企業が問題意識を持つ必要があるということを強く感じています。問題意識をもって、しっかりとした対策を取っている企業は予防も職場復帰も上手くいっています。

最近、一般的な管理職研修の中でも、メンタルヘルスのテーマを取り入れたいというニーズが増えてきているのは、各企業の問題意識が高まったからだと思います。

―意識や環境、風土を変えることで、十分に改善ができる問題だということがよくわかりました。メンタルへルスというテーマの周辺にも、取り組むべきテーマがありそうですね。

(羽地)
その通りです。メンタルヘルスというのは、それだけで独立しているテーマではないと思っています。「組織や職場の活性化」、「人材育成」、そして「メンタルヘルス」、この3つは相関関係があります。例えば、「職場や組織の活性化が上手く行われている」、「しっかり人材が育っている」職場というのは、メンタルヘルスの不調者は少なく、反対に、ひとつでも上手くいっていない部分があると、全部上手くいっていなかったりします。この3つのテーマは相関関係にあり、上手くいくサイクルをどのようにして作っていくのかということを、企業に対して支援しています。

―その3つのテーマが上手くいっている職場は、どのような特長があるのでしょう

(羽地)
まずは、コミュニケーションがきちんと取れていることが大きな特徴だという気がします。例えば、あいさつがある、困った時に周囲の人に相談しやすい、ほめる、一緒に喜ぶ、などのFace to Faceのコミュニケーションが取れている職場は、活性化しており、人も育ちます。メンタルの不調も出にくくなりますし、出たとしても、早期発見できます。

-企業でメンタルヘルスの研修や育成を行う際も、コミュニケーションというテーマが大切なポイントになってくるという事ですね。


(羽地)
その通りです。そして、もうひとつ挙げるとすれば、自分の仕事に、ちゃんとやりがいを感じているかどうかという事です。自分の仕事の意味合いや、組織の中での位置付けを本人が理解しているかどうかは、職場の活性化や育成にも関係しています。

自分の仕事の意味を全く理解しないまま、「何故こんなことをやらないといけないのだろうか」などと感じることも通りすぎて、何も感じないまま上司から言われるままに、次から次へとただ追われるようにこなすだけ。そういったことを繰り返している人は、メンタルヘルス不調になることが多いのです。

Vol.2 多様な価値観を理解し合う必要性

―働きがいや、やりがいなどは、具体的にどのようなものでしょうか。

(羽地)
人や世代によって、やりがいを感じるポイントは違うと思っています。

高度経済成長期の頃に生まれ育った我々は、努力して頑張れば、必ず報われる、儲かるという時代を経験しています。会社の利益の為に頑張れば、その分、会社も報酬、昇進などで報いてくれました。

そういう時代を経験した人が、今、経営者や管理者となって、頑張れば報われるという価値観を持って、会社の利益の為に頑張れというメッセージを発します。

我々の世代は、会社を発展させれば自分にもちゃんと恩恵があるというように、会社の利益の為にというのが、モチベーションの源になっていました。

でも、頑張っても頑張っても将来の幸せが見えない、報われないという時代に生まれ育った人たちに、そういうことを言っても、たぶん共感してもらえないでしょう。

-そうかもしれませんね。では、信頼関係と若い世代の成長とはどのような関係がありますか。

(羽地)
ここで一生懸命やれば、必ず会社は報いてくれる、何か自分にとって良いことがある、という信頼関係があると良いのですが、今の若い人は、会社の利益の為ではなく、自己成長が”やる気スイッチ”の源になっている人が多いと感じます。中には、お客様の為、社会の為に頑張りたい、それが自分のやりがいだという人もいます。また仲間と楽しくやりたい、という”やる気スイッチ”もあるでしょう。

そういう意味では、昔と違い、仕事のやりがいを感じる源が多様化してきたと言えます。昔はやりがい・働きがいの源が一つだったから良かったのですが、今は、そうした様々な価値観を持った人が、一つのチームを組み、組織を構成しているという事を、経営者や管理者は理解する必要があります。

-人にはさまざまなモチベーションの源泉があるということを、マネージャークラス、あるいはその上の方々は知っていないといけないということですね。

同時に、若手中堅クラスの人も、自分のモチベーションの源泉がどこにあるのかということを、しっかりと把握する必要があるという事ですね。

(羽地)
やはり自分で自覚して、それを自分で満たす仕事の取り組み方やキャリア形成が必要だと思います。やりがいや働きがいは与えてもらうものではなくて、自分でつくりだすものです。

自分はこれを大事にして仕事がしたい、自分のこだわりをはっきりと持ち、それを打ち出す時代なのではないかと思います。

また、現在は、外国人がどんどん採用されています。外国人も含めると、それこそ文化や生まれ育った環境が千差万別、モチベーションの意味合いは、もっと違うものになります。

今後、どこの企業でも、外国人や、正社員以外の、契約社員や派遣社員がどんどん雇用されるようになるでしょう。そうすると、組織への帰属意識やモチベーションの源泉が全く違う人が増え、働く意味や価値の多様性がますます広がっていくことは確実です。

その点を、リーダーやマネージャーは、しっかりと理解しておくことです。自分の価値観だけを押し付けるのでは、絶対に上手くいきません。

それが出来ている企業が、多分、これからは強いのでしょうね。多様な価値観を持った人が集まり、それが企業のパワーになっていくのだろうと思います

-マネージャーやリーダーには、そういった意識や行動が求められるのですね。では、若手・中堅クラスについてはどうですか?

(羽地)
日本の多くの企業、特に製造業では、40代以上と20代に比べて30代の人数が少ない砂時計型の人口構造が多くなりました。30代は人数は少ないけれども、仕事はバリバリできる年齢で、自分でもたくさんの仕事を抱えているうえに、下も育てないといけません。

経験的にですが、最近の30代は、真面目で一生懸命だけど、どこか自信がない、仕事の中での満足感がないという人がすごく多いと感じています。一方、我々のような50代・60代は、結構、好き勝手にのびのびやってきた時代がありました。30代の人たちにも、もっとのびのびと、上の世代の顔色など気にすることなく仕事に取り組んで欲しいと思います。

Vol.3 好循環企業の特長

-羽地さんが支援している企業で、メンタルヘルスの施策が上手くいっている企業の教育体系や育成の取り組み方にについて教えて下さい。

(羽地)
一つの階層だけの教育では上手くいきません。メンタル面でタフな新入社員を育てるためには、その上のOJTトレーナーをしっかり育てる。そして、そのOJTトレーナーのサポートを管理職がきちんとできるように育成するというように、それぞれの連携が取れている事だと思います

-管理職やマネジメントの一部の人だけではなく、様々な階層でメンタルヘルス教育を行い、それが循環するということが、良い事例だという事ですね。

 また、様々な階層で研修をされてきたと思いますが、羽地さんが大切にされているポイントはありますか。例えば、メンタルヘルスという言葉に対して、受講者からもアレルギー反応のようなものがあったりするかと思われるのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

(羽地)
確かに、メンタルヘルスという言葉に対して、偏ったイメージがあるように感じます。そういう場合は、例えば、「メンタルウェルネス」という言葉を使うことで対応したりしています。
新しい言葉で伝えるという方法は、有効かもしれません。例えば、「メンタルウェルネス」という言葉を使う事により、病気の人への対応ではなく、職場が活性化する、人が育つための施策だと感じられるようになるかもしれません
その他には、「セルフマネジメント」という言葉を使ったりしています。言葉を変えることにより、抵抗感なくプログラムに参加できるというのはあると思います。

また「組織の活性化」「人材育成」「メンタルヘルス」のヒューマンマネジメントの研修として行うことも多いです。

-研修を受ける前段階の、言葉の見せ方も大切という事ですが、研修プログラムの内容やその他の取り組みについては、どのようなものが効果的なのでしょうか。

(羽地)
3つあります。
1つ目は、スキルを身に付ける事だと思います。マネジメント層については、まずは予防。不調者のでない職場づくりを学んでもらいます。次に早期発見。不調のサインを見つけ、声をかけてその人の話を聴くスキルが必要です。ケーススタディーやロールプレイングで実践的なスキルを身につけてもらいます。そして休職者が職場復帰できる環境づくりです。中堅若手については、セルフマネジメントという自分自身を良い状態にするスキルが大切です。これらのスキルは研修で身につけることが可能です。

2つ目は、システムや制度といった仕組みを整える事です。メンタル不調者もしくはその予兆がでている人が出た時に、相談できる場や、場合によっては外部の専門機関につなげるという仕組みをきちんと作る事が必要です。

3つ目は、風土、雰囲気です。スキルや制度とは違い、雰囲気です。例えば、メンタル不調者に対して、オープンに話せる雰囲気、風土を作る事です。

教育は、スキルだけではないと思っています。自社のメンタルケアの制度について正しく理解してもらい誰もが活用できるような知識教育も大切です。

またメンタル不調の対応の成功事例や、回復した事例を企業側から社員に積極的に伝えることで、「メンタルのテーマはタブーではない」「もっとオープンに言ってもいいのだ」という風に捉えることができます。

オープンに言えば言うほど、実は問題は未然に防げるものなのです。隠すことによって、事態が根深くなり、突然休み明けに出社しなくなった時にはもう慢性化してしまっています。

オープンにすることで、皆が安心して、悩みや不安を職場でも話せるようになります。
このように、スキル、制度、雰囲気の三つが整っている企業は、上手くいっています。私もこれを企業に是非提供したいと思って、日々支援しています。

-好循環している企業は、スキルだけではなく、制度や雰囲気など、そういった教育や環境整備もしっかりと行われているということですね。

vol.4 オープンな職場環境が回復を促進する

―では、回復して戻ってくる人たちに対する企業の受け入れ体制について教えて下さい。

(羽地)
これは、他のテーマでもそうかもしれませんが、日本は、敗者に対して非常に冷たいと言いますか、一度脱落すると立ち直るチャンスがない風土があると思います。
アメリカばかりをよく言うつもりはありませんが、米国企業ではメンタルヘルスの問題はまずありません。それは、敗者=チャレンジした人という事で、復活するチャンスが与えられるということがあります。
一度メンタルで不調になったとしても、いつでも復活できるという安心感があれば、安心して休め、治療に専念することができます。

けれども今は、一度脱落したら、もう二度と管理職にはなれない、浮かび上がれないと思ってしまうので、隠して我慢をすることで、病状が深刻になり、結局上手くいきません。
復活した成功事例をたくさん作り、復活した人たちを賞賛し、ある意味でヒーローにする、良い事例として扱うことが大事だと思っています。

 

日本では、一度も失敗をせずに上にいった方が良いと思われがちですが、実際、そういう人はリスクを取っていないという見方もあると思います。 日本の制度や社会システム、企業の中では、敗者はなかなか復活できないという風土がありますので、このことは、日本の社会や様々な組織で必要なことだと思います。

-かなりセンシティブな部分だと思いますが、こういう事をオープンにして、企業で共有する場を作る必要もあるということですね。

(羽地)
そうですね。メンタルヘルスは、隠すと上手くいきません。正しく理解することが何よりも大切です。
例えば、日本では、精神科の病院に行くことを、あまり人には言いません。「アナライズ・ミー」というロバート・デニーロ主演の映画がありました。パニック障害になった組織のトップが著名な精神科の治療を受けるという内容ですが、アメリカではストレスがかかるほど仕事をバリバリやって、有名な精神科で診察してもらうというのがステータスなのです。
一方、日本は、一度精神科に行くと、社会からはじき出されるというイメージがどこかにあるので、隠します。このテーマを隠さないでオープンにして、自慢するくらいになって欲しいと思います。
「自分の弱さを受け入れて問題を直視する」人こそ、本当の意味でタフですし、成功する人ですから、オープンにすることが重要ではないかと思います。

-オープンな環境をつくるには、メンタルヘルスに対する、正しい理解・真の理解が必要だと思います。このテーマをより理解する為に、この映画以外に、適切な書籍などがあれば教えて下さい。

(羽地)
最近では「ツレがうつになりまして」は有名ですよね。漫画だったものが、テレビドラマにも、映画にもなりました。
バリバリ仕事をしていたスーパーサラリーマンの夫が、ある日突然死にたいと言い出したという、実話をもとにした漫画です。漫画ですから面白おかしく描かれていますが、鬱から回復していく過程などは、きっと共感できると思います。

vol.5 健全な職場づくりに必要なスキルとは?

-マネジメントされている方々にとって、特に必要なスキルがあれば教えてください。

(羽地)
先程も言いましたが、マネジメント側として必要なスキルは、話を聴く、悩みを聴くということです。一方的に、自分の指示や命令しか言わない、周囲の話しに耳を傾けないような人は、マネジメントをしてはいけないと思います。

やはり、上司に必要なのは、聴き出す能力であり、それによって問題を把握することができるのです。問題や悩み、時には不満や不安といったネガティブなものも聴き出し、吸い上げる能力が必要です。さらに、「責任は自分が取るから、あなたは精一杯やりなさい」と部下にメッセージを伝えることでしょう。

-声掛けみたいなところですね。

(羽地)
責任は部下に押し付け、上手くいかないことや、業績が悪いことも部下のせいにするなど、もってのほかで、上司は部下に安心感を与え、チャレンジする勇気を与えられるかどうかだと思います。

-マネジメントする側が安心感を与える行動をとる一方で、部下はどのような行動をとればよいのでしょうか。
 
(羽地)
上司に対して、自分の抱えている問題や悩みを、きちんと伝えなくてはなりません。最近の若手には、この能力が決定的に不足していると感じています。

入社して3年以内に、新入社員の3割が辞めているというのは、会社を辞める前に、誰にも相談できなかったのではないでしょうか?誰にも言えずに、溜め込んでいる若い人たちがすごく多いと思うので、若手や中堅社員は、悩みや、困っていることや抱えている問題を、きちんと上司に伝えるという能力を、身に付けていって欲しいと思います。

-自分の考えや悩みを論理的に伝える能力が不足しているという傾向は、今の若い人には多く見られますか?

(羽地)
多いです。特に、ネットやメールで育った世代は、そういうツールの中では、何となく表現することはできます。絵文字やキャラクターを使っては言えるけれど、自分の言葉では言えない人が多いのです。

自分の言葉で、悩み、困っていることを伝えられずに、手軽なネットのキャラクターでごまかしています。そこで本音を言っているかといえば、そのようなことはないですし、今の若い人は、キャラクターを演じているといいますか、友達同士の間でも、本音や悩みを言えません。

今の若い人、特にネットで育った人達は、自分の内面を言語化する能力がものすごく低下していますので、しっかりと自分の言葉で伝えるスキルを身につけることが必要だと思います。

-最後に、羽地さんが、講師として心掛けておられることについて教えてください。

(羽地)
スキルを教えることや、講師としてのメッセージを伝えることはしますが、やはり、受講生がお互いに学び合う、指摘し合うといった場を作ることを一番大事にしています

もちろん、お互い指摘し合う為のポイントややり方を、論理的に教えることはしますが、基本的には、本人達が、そこで実際に体験し、お互いにフィードバックし合い、共に学ぶ場を作ることを大事にしたいなと思っています。

-一方的に、インプットするだけではなく、インタラクティブな場を作るということですね。

(羽地)
そしてこれは蛇足ですが、若手の研修の時には、人生は楽しい、仕事って素晴らしいものだということを伝えたいと思っています。そんな事を思いながら、日々、研修に精一杯とりくんでいます。

-本日はありがとうございました。

(羽地)
こちらこそ、ありがとうございました。

◆羽地 朝和(はねじ ともかず)プロフィール◆

一般社団法人日本能率協会 専任講師
株式会社プレイバック・シアター研究所 所長
大手企業から中堅企業を対象に、人材育成コンサルティング業務に従事。その他、精神科クリニック・精神病院でのグループセラピー、大学・専門学校等で人間関係論などの教鞭も取っている。