今の時代に求められるリーダーを育てるためには

公開日:2017/07/11 更新日:2023/09/14

研修の最前線で活躍する講師へのインタビューを通じて、人材育成について考えるシリーズ。

企業を取り巻く環境が劇的に変化している今、リーダーに求められる資質も変化しています。どのような資質が求められ、企業はどのようにサポートをしていくべきなのか。HCD(Human Capital Development)のマツイ エリザベス氏と川島民子氏にお話を伺いました。

1.リーダーシップ研修で、可能性を紐解く

 

―お二人はリーダーに対する研修をされていますが、研修を通じてどのようなことを感じますか?

 <川島>

リーダーになった方の多くは「こんな自分がリーダーで良いの?」という疑問や不安を持っていますね。まずは、それを解消してあげないといけないと思います。自分自身を受け入れ、自分を信じ、信頼することができないと、リーダーとしての活動がうまくいかないからです。まずは、そこが根本ではないでしょうか。

確かにリーダーになることに重責を感じ、「リーダーになりたくない」とさえ言う声も聞きますね。

 <エリ>

リーダーになることに魅力を感じないからでしょうね。苦労ばかりしているリーダーの姿を見ていると、なりたくないと思ってしまう。ロールモデルがいないからだと思います。

―特に、日本の女性にそういう声が多いですね。「女性活躍」と言われていますが、「リーダーになりたくない」と言う人も多いと聞いています。そういう女性リーダーには、どのようなアドバイスをしたらいいでしょうか。

<川島>

「あなたがリーダーの役割を担えるから、そのポジションを与えられた。だから、自分を信じなさい」ということですね。研修で女性リーダーの話を聞くと、「会社を良くしていきたい」という気持ちを持っていることが多いんです。自分なりのやり方でいいんだとわかると、成長していくことができると思います。無理をして、自分以外の誰かになる必要はないんですよ。

<エリ>

あるがままの自分を受け入れるということは、「自分に傲慢になる」こととは違います。自分は完成しているから、もう成長する術はないんだということではなくて、「成長というのは一生の旅だ」と考えるべきです。死ぬまで成長する意思を持つ。

最近の脳の研究から、私達の脳細胞は死ぬまで学ぶことができるということがわかっています。どんなに年をとっても成長する術はあります。だから、リーダーもずっと勉強しなければいけない。好奇心を持たなければいけない。好奇心を持って、他人から学ぶ。その可能性を紐解くのが、リーダーシップ研修だと思います。

2.企業が直面する課題

―現在の企業の課題は、どこにあると思いますか?

<エリ>

「今までどおりの売上を維持拡大していくためには、どのようにすればよいか」ということでしょうね。今までどおりのことをしていても、以前のような売上には繋がっていかない。何を変えれば会社が成長しつづけることができるのか。その点にあるのではないかと、私は感じます。もう今までどおりのやり方では、同じような結果が見込めないことがわかっているのですが、では何をすれば良いか、どのように変えれば良いのか。そこが大きな課題になっているのではないでしょうか。

消費者の変化もあります。今まで何百年も続いた企業が続かなくなったりして、何を信頼すればよいのか、消費者も不安に思うようになった。そうすると、企業側にも品質を上げるように努力しますが、逆にコストは上がっていく。この葛藤が大きいのではないでしょうか。

 

<川島>

今までどおりのやり方を変えなければいけないということはわかっているのだけれども、「変えたらどうなるの?」という保証がない、そんな不安感がありますね。冒険をして、何か新しいことをしなければならない。もし失敗したら会社がなくなってしまうかもしれない。それは企業そのものにだけではなく、個人個人の中にもあるのではないかと思います。大きな変化をさせようとすると、抵抗が生じます。一気に変化していこうとすると、誰かが変化を阻もうとします。

 

―昔に比べて、そういう傾向が強くなったということでしょうか?

 <エリ>

私の個人的な感想なのかもしれませんが、今の方が「守り」に入っている気がしますね。日本という国は、戦争に負けて、約60年前にゼロから立ち上げてきた経験を持っているわけですから、新しいものに取り組んで、それが成功しなかったとしても、もう一度立ち上がっていくことができると思います。ですが、人間というのは「結果」を一度手に入れると、それを手放したくないから、維持するようになったり、守りに入ったりする。それが人間の習性です。もしかしたら、日本の社会は、自分たちを解放していくための新たなスタートを切る時なのかもしれませんね。

 

―「守り」から抜け出せない理由は?

<エリ>

やっぱり「出る杭は打たれる」から、組織がそういう文化になっているから、ということではないでしょうか。本当の意味で、変化に立ち向かっていくリーダーが出てこない。戦後の日本の歴史を振りかえってみると、いろんなところにそういう挑戦的な人達がいたわけじゃないですか。ユニークで、ちょっと扱いにくいけれど、結果は出すという。そういう方達のおかげで企業は成長したのだけれど、最近はあまり見ないですよね。そういうリーダーになるべき人達を増やしていく必要があると思いますね。

<川島>

既存の枠にはまらない、そういう人達が成長しているときは、大きな変化が起こると思うんですけれども。そういう意欲を持った人が伸びる場所がないんじゃないでしょうか。全くいないというわけではないかもしれませんが、少なくなってしまった。いたとしても、海外に行ってしまっているのかもしれません。

3.「変革」には「認識」から

 

―組織の変革に取り組むために、どのようなことをされていますか?

<エリ>

組織全体に変革を起こすのか、それとも、それより小さな単位であるチームや部門から変革させるのかは、その企業次第だと思いますが、私の体験では、変革を起こすためには、「認識」に変化を起こす必要性があると思います。

不可能だと思っていたことが可能になるという認識が芽生えてくると、今までと違う行動が可能になります。それが、変革なのではないかと思います。

残念なことに、自分自身を「自らが主体的におこなう立場」として認識するのではなくて「誰かにやらされている立場」として認識してしまっている場合があります。自分自身が主体的に、結果を作っていくんだというのではなく、社会や会社が私にそうするように指示している。そう捉えてしまっていると、個人個人のパワーが伸びてこない。パワーレスになってしまいます。

―リーダー育成のためには、企業はどのようなことをするべきなのでしょうか?

 

<エリ>

企業のトップ、リーダー層から変化を起こすべきだと思います。企業を引っ張っていく上層部が、どれだけ耳を傾けることができるのかということにかかってくるのではないでしょうか。企業の変化というのは下だけが動いても、上がその力を汲み上げていかなければ、どこかで天井にぶつかって終わってしまいます。トップ/ボトムの境界線を引かずに、企業全体でスクラムを組んでいく必要があるのではないでしょうか。

 

もちろん、既にそのように取り組んでいる企業も見受けられますが、面白い事にそういう企業は自分たちがそのように取り組んでいると認識しているわけではないみたいですね。自分たちを他社と比較していないからなんでしょうけれども。

 

<川島>

新しいことに取り組もうとするリーダーを育成することは可能なのですが、それを継続する為には、やはり企業の文化も一緒に変わっていく必要があると思います。短期間に取り組んでも駄目で、継続してサポートされる環境がなければ、その力が失われてしまいます。

4.リーダーはWalk the talk

―リーダーはどのようにするべきなんでしょうか?


 

<エリ>

上級管理職の方が社員に要求していること、チームに要求していることを、まずはリーダー自身が実行することでしょうね。英語ではwalk the talkと言いますが、まずは有言実行です。上から目線で「スタッフにああしろこうしろ」と指示だけする時代ではもうありません。ちゃんと自分が模範になって、企業の成長のためなら「なんでもするぞ」と行動する。そういうことが要求されているのではないでしょうか。

―リーダーがまず動くことが、必要だということですね。

 

<エリ>

そうですね。リーダーはチームのスタッフが結果を出しやすく導くのが役割だと思います。ですが、場合によってはリーダーも自分が現場に出ていくことも必要です。自分が結果を作らなければうまく回っていかない場合は、プレイングマネージャーになる。そういう柔軟性をリーダーは持っていないとまずいと思いますね。

<川島>

自分が動くようなリーダーでないと、部下はついていかないですよね。

<エリ>

今は「私の背中を見て育ちなさい」という時代ではなくて、教えることも必要です。時々は、実際にやって見せてあげなければいけない。だから、今の時代のリーダーは複数の役割が必要になる。柔軟性が要求されて、しかも傲慢になってはいけない。偉そうにしてはいけない。そういう時代ですよね。パワフルで、しかも上から目線では駄目です。

そういう意味では、リーダーって大変かもしれませんね。上からのプレッシャー、下からのプレッシャー、両方からの板ばさみがあります。しかも、グローバルな認識を持たなければいけない。ビジネスのグローバルスタンダードも要求されています。

リーダーに求められることは、当然、未来に何をしていきたいかという夢やビジョンにコミットする勇気。一人では結果を作りだすことは難しいですから、正直に周りのスタッフに協力や支援を求め、スタッフとともに結果をつくっていくということ。そういうことが求められていると思います。

 

部下が会社に満足しているか、社員満足度が問われていますよね。自分の直属の上司が、自分のことを思いやっているかということが、社員満足度に大きく影響します。入社するときは、企業の規模などで会社を選ぶのかもしれませんが、退社するときは直属の上司を理由に退職することが多いわけです。「私の上司は、私のことを考えてくれていない」と。「この仕事を続けていても、私の成長の術はない」と思う場合もあります。リーダーはスタッフを支援できるような素質を持っていないといけません。

 

5.リーダーに求められる「人間力」

<川島>

リーダーは組織のメンバーとともに目標を実現していくものだと思うんです。自分だけで行動するのではなく「人と共に」というところが重要で、お手本にもなるし、コーチングもおこなう。社員がこの人と一緒にやっていきたいと思われる人間でなければいけません。だから、今まで以上に「人間力」が問われていると、強く思います。会社員は会社でずいぶん長い時間過ごします。ほとんどの時間を会社で過ごすと言ってもよいですよね。最も多くの時間を過ごす上司と「一緒にやっていきたい」という思いがなかったら、組織はどんなことをやっても成功しないと思います。

 

昔も「人間力」は重要でしたが、他にも人を動かす要因があったと思うんです。ですが、今は人としてどうかというのが鍵になるんじゃないでしょうか。リーダーとして、どんな「人間力」が必要なのかということを学ぶことが、大事になっていると思います。

 

<エリ>

リーダーシップというものは、極めて個人的だと思います。仕事のアプローチが個人で違うのと同じで、スタイルが各々で違う。リーダーシップは個人差が生かされてくる要因です。聞き上手であったり、尋ね上手であったり。人の意見やアイディアを取り入れることができる柔軟性、順応性を持っている。そういう性質も必要でしょうね。

 

 ―「人間力」を身につけるためには、どんなことが必要でしょうか?

<川島>

ひとつには、自分が生きている人生が、会社だけではないということを知ることですね。家庭もあるし、あるいはそれ以外の部分もありますよね。そういう自分を拡げていく経験をすることが大事です。自分が今まで知らなかったことや避けてきたことにチャレンジする。いろんな学びの側面を拡げていくことがプラスになると思います。

 

―リーダーを育成するには「人間力」を高めることが必要で、そのためには自分を深く知ることが必要だということですね。

<エリ>

そうですね。ビジネスの面でも探求は必要でしょう。いろんな角度から自分のビジネスを知る。それも必要になってくるわけです。営業の方でしたら、営業のことだけを知るのではなく、マーケティングはどうなのか、ファイナンスはどうなのか、グローバルな環境はどうなのか、といったことですね。

―自分自身を知るためには、良い方法は?

 <エリ>

ひとつは日本能率協会でも実施している「DiSC」という診断ツールですね。それから「MBTI(エムビーティーアイ:Myers-Briggs Type Indicator)」もあります。これも良い性格検査です。マイヤーズとブリッグスという2人のお母さんが作ったものですが、子供達のマインドにあった教育をどのようにしたらいいかというところから生まれたもので、ユングやハイデッガーの考え方をベースにしています。これは調査データがたくさんありますので、パワフルですね。アメリカではMBTIは、広く用いられるようになってきています。

 

他にはケン・ブランチャードさんのシチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論 Situational Leadership Theory)もあります。リーダーシップとは、相手の成長に合わせるべきものだという考え方ですね。私もそのとおりだと思います。部下達がリーダーである私のスタイルに合わせるのではなくて、自分の部下やチームメンバーの成長度合いに柔軟に合わせていくのがリーダーだという考え方ですね。これもとても良いツールですね。

 

今の時代は、めまぐるしく変化する時代です。会社の中のリーダーが、自社の「健康状態」をつかみ、どのような「処方」が必要なのかを掴む必要があります。ですから、その対処方法、処方をできるだけたくさん持っているほうが、柔軟に対応できますよね。

いろいろな種類の処方がありますから、おもしろい時代だと思いますね。ひとつのやり方だけではなくて、柔軟に自分たちの作り出したい目的に沿った方法で、社内のスタッフを導くと良いと思います。