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感情労働の増加にあたり、企業として取り組むべきこと

公開日:2022/11/24 更新日:2023/09/13

感情を使って人に接する仕事のことを指す「感情労働」が増えています。一方、その裏では社員のストレス問題も懸念されています。そこで、社員に対して企業が取り組むべきことを解説します。

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感情労働の定義

感情労働はアメリカの社会学者、A・R・ホックシールド氏が提唱し、頭脳労働や肉体労働と同様、労働の1分野として分類されます。相手(=顧客)に対して心理的にポジティブな働きかけをして報酬を得る労働のことを指し、感情の抑制や緊張、忍耐といったコントロールが必要な働き方で、代表的な職種や業界は以下になります。

職種

客室乗務員、販売員、飲食店員、医師、看護師、介護士、カウンセラー、保育士、教師、銀行店舗の案内係など、直接人と接する仕事

業界

航空、飲食、小売、宿泊・ホテルなどのサービス業、医療・介護、教育、金融、官公庁、広告・メディア業など

しかし近年は、あらゆる職種に「コミュニケーション能力」が求められているため、顧客と直に接する職種にとどまらず、多くの労働者が感情労働と同じような働き方になっています。カスタマーサービス、コールセンター、クレーム対応、企業の広報などがそれに該当しますし、個人・企業にかかわらず社会で働いていれば、社内外問わず、感情を抑えながら相手対応する場面はいくらでもあります。

感情労働が増加している背景

感情労働が増加した背景の一つには、日本の産業構造が第1次産業と第2次産業を抜いて第3次産業中心に変わったことが挙げられます。感情労働は第3次産業でよく見られますが、現在、労働人口の約67%が就いており、今後も増加が予想されます。

(参考:産業別15歳以上就業者数の推移・全国大正9年~平成17年)https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/sokuhou/03.html

また、製品やサービスの多様化が激化していることも背景にあります。顧客から選ばれるための基準として「顧客満足(カスタマー・サティスファクション)」という言葉と概念が定着し、顧客は製品やサービスだけでなく、提供する「人材の質」まで求めるようになりました。そのため、感情労働者は、より顧客を不快にさせないことや顧客満足を高めるための独自の対応に迫られています。

他には、インターネットやSNSの普及も感情労働を増加させているといえます。顧客対応の不手際が些細なことであっても、SNSを介して発信されると企業はイメージを損ねます。それを防ぐため、企業は、自社の社員に過剰ともいえる良識(感情労働)を求めるようになっています。

感情労働に求められるスキル

感情労働は自分の感情を抑えて、相手が求める感情を表現する仕事です。そのため感情をコントロールするスキルを身につけることが必須です。

また、人と接することが基本になるのでコミュニケーションスキルが求められるのはいうまでもありません。例えばクレーム担当者などは、常に顧客のネガティブな感情に対応するため、より高度なコミュニケーションを必要とします。企業としての誠実さや責任ある対応をしながら、顧客の誤解や不満を解消するといったスキルです。

 他には、ストレス要因の病気になることが多いのも感情労働の特徴であり、そうならないためにはストレスをマネジメントするスキルも必要でしょう。

感情労働を行う従業員に対して理解しておくべきこと

感情労働を行う企業の人事が理解するべきことは二つあります。社員の疲労やストレスは、肉体労働や頭脳労働と比べて回復しにくいということと、バーンアウト(燃え尽き)を引き起こす可能性があるということです。

肉体労働や頭脳労働の疲労やストレスは、身体や脳を休めることで対処できますが、感情労働は休息をとれば回復するというものではありません。これは自分の感情とのギャップのためだと考えられます。

感情労働者は顧客に喜んでもらうため、自分の感情を抑制してでも仕事へのやりがいを求めがちです。しかし顧客の反応や効果など自分が望んだものと違う時、感情とのギャップが生じ、それがストレスにつながり、休息だけでは回復しにくいのです。 

バーンアウトとは、それまで精力的に仕事に取り組み高い実績を上げていた人が、ある時からすべてに無関心となり、意欲が低下し、行動や言動に問題を起こすことです。感情労働には一種の演技になる「表層演技(感情を抑えて別の感情を抱いているかのように振る舞う)」と「深層演技(自らそう思い込むように感情を誘発し、なり切る演技をする)」の対応術で顧客に接するのですが、バーンアウトはこれらが過剰となり限界を超えると発症すると考えられています。

感情のギャップもバーンアウトも、仕事に熱心で責任感が強い人ほど起こしやすい傾向にあるので、企業はこのことも知っておく必要があるでしょう。

企業が行うべきケア

社員に不調を発症させないために、企業がとるべき有効な対策を挙げてみます。

.ストレスチェック制度の導入

現在、厚生労働省では労働者が50人以上いる事業所にストレスチェック制度の導入を義務づけています。未導入の企業は速やかに取り入れて、産業医や医療機関と連携しながら社員のストレス状況の把握や結果の分析、ケアの優先を決めるなどの対策を行いましょう。ストレスチェックの雛形は、厚生労働省や東京都のホームページからダウンロードできます。

.相談窓口の設置

相談窓口を設置することも有効なケア対策でしょう。社内だけでなく、社外にも相談できる場所があるということが社員に安心感を与えます。また、実際に現場で起きている問題も把握できるので対策がわかります。

.悪質クレームへの対応の明確化

顧客からのクレーム対応は、社員の精神に強い負荷をかけます。悪質なクレームについては「担当者」と「企業」とで、対応する内容の線引きを明確にしておく必要があるでしょう。

 .ストレスケアの教育や研修の実施

社員が病気を発症してしまった後の企業対応は重要ですが、それよりも病気を予防する対策を取ることが大事です。例えば、ストレスケアの教育や研修の実施は予防に有効でしょう。社員にマインドフルネスやメンタル・ヘルスマネジメントを身につけさせることで、精神的なストレスの軽減、仕事へのやりがい、エンゲージメント、パフォーマンスを高めることに繋がるはずです。

まとめ

特定の職種に就く人だけが感情労働とはいえず、今や社会で働く多くの人が感情労働と同じ働き方になっているともいえます。感情労働は精神的ストレスと密接に関わっています。メンタルヘルス関連の研修は、社員のストレスのマネジメントや軽減に有効なので、ぜひ活用してみてください。

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