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管理職なら知っておきたいコンプライアンスの基本

コンプライアンス違反が問題になる度に社会の目が厳しさを増しています。そのため、どの企業も違反対策の課題を抱えていますが、組織の隅々にまでコンプライアンスを定着させるにあたり、鍵を握るのが管理職です。今回は管理職が押さえておくべき基本の行動や知識をご紹介します。

コンプライアンスという語が指す範囲

コンプライアンスとは「法令遵守」を意味します。その範囲は、主に「法、社内規範、倫理」の3つの規範に分けられます。法規範は法律や条例、裁判所の規則など、社内規範は企業が定める「就業規則や社内規定」など、倫理規範は「社会通念上のルール」です。またこのほかにも、社会道徳やマナーなどもコンプライアンスの範囲となります。したがって、企業に勤務する全社員はそれらを全般的に守ることが求められます。

コンプライアンス違反の種類としては、会計上の不正や、労務に含まれる従業員の健康、安全、また環境などに対する違反や侵害などが考えられます。

具体的な内容

パワハラ・セクハラなどのハラスメント、長時間労働、SNSの不適切利用、社内備品の私的使用、会社の機密情報、個人情報の漏洩、取引先との金銭的不正、粉飾決算、入札談合、インサイダー取引、産地偽装、品質管理データの改ざん、虚偽広告、環境汚染など 

これら不祥事や不正は、行政から処分を受けたり、刑事事件に発展すれば当事者が逮捕され、懲役や罰金を科せられることもあります。

今、コンプライアンスが重視される理由

企業がコンプライアンスを重視するようになった理由を挙げてみましょう。

SNSで不祥事が拡散しやすくなった

SNSの普及によって社内の不祥事や不正が、これまで以上に早く拡散しやすくなりました。些細なことでも不祥事が拡散してしまうと、事態が大きくなる可能性があるため、各社はコンプライアンスを重視するようになりました。

デジタル化による漏洩が起きやすくなった

業務におけるデジタル化は、同時に情報の漏洩リスクが高まったことを意味します。ありがちなのは、休日に自宅で仕事をするため、顧客や社員の個人情報をUSBに保存して持ち出しすること。これは情報漏洩のリスクになります。デジタル化が避けられない現在は、どの企業も情報の取り扱いに細心の注意を払っていることでしょう。

社内ルールにリモートワークを対象にした内容が増えた

リモートワークが普及したことによって、社内で働いていた時とは異なるコンプライアンス違反のリスクが高まりました。

例えば
①リモートワークにおけるハラスメント(上司が部下に頻繁な報告を求めるなど過剰な監視を行う)、
②意図しない情報漏洩(仕事用と私用のパソコンの管理が不適切だったり、カフェなどで仕事をしたりするためリスクが高まる)、
③適正な労務管理が難しい(リモートワークでは、労働時間の把握が難しく、長時間労働になりやすい。また、逆に虚偽の報告もある)などです。

会社側は、リモートに関する新たなルールを社内規定に追加する必要性に迫られ、社員側もこれまで以上にコンプライアンスを意識する必要が出てきました。

パワハラ防止法が適用された

20224月から中小企業にも、パワハラ防止法(労働施策総合推進法の改正によって職場でのパワーハラスメント防止対策が事業主に義務づけられるもの)が適用されました。パワハラの定義は、
①優越的な関係を背景とした言動、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動、
③ 労働者の就業環境が害されること。
この3つの要素を全て満たしてしまうと、悪質な場合は企業名が公表されてしまいます。このような外的圧力が高まっていることも、コンプライアンスを重視する理由になっています。

最近は、社会の目もコンプライアンスに厳しくなり、違反が明らかになると会社の信用が落ち、株価の下落、売り上げ減少などの影響も出やすくなっています。最悪の場合には倒産に追い込まれることもあります。こうした社会的な影響の大きさが、コンプライアンスを重視する企業が増えた理由といえます。

管理職に求められる役割

コンプライアンスの意識を組織やチームの隅々まで浸透させるにあたり、中心的役割を担うのが管理職です。求められる役割は大きく3つ考えられます。

役割1:みずからコンプライアンスを違反しない

管理職は部下を指導する立場にあります。当然のことながら自身がコンプライアンスを違反しないことが求められます。「わかっているのに手を打たない」、「見てみぬふりをする」という行為は許されません。

役割2:コンプライアンス違反を予防する

コンプライアンス違反の起こらない組織やチームを作ることも管理職に与えられた任務です。違反が起きにくいとされる条件は、「普段から部下とコミュニケーションをとっている」「チーム内の失敗を隠さない風土になっている」「管理職自身がポジティブ思考を心がけている」などです。こういったことを意識しながら、違反を予防する方策を考えてみましょう。

役割3:違反が起きてしまった時に対応する

万が一コンプライアンス違反が起きてしまった時、問題の対処を行うことも管理職の大切な役目です。違反した事実の確認、報告、不正後の対策など迅速な対応が求められます。事前に、社内の通報窓口を把握しておく必要があるでしょう。

管理職自身のコンプライアンス違反を防ぐための注意点

管理職の中には、「自分は絶対にコンプライアンス違反をしない」と思っている人も多いかもしれません。しかし本人が気づかぬうちに違反をしていたというケースもあります。管理職が違反を防ぐため、念頭に置くべきことを挙げてみました。該当する項目がないかを確認してみましょう。

1・社会人としてのルールは一般社員と同じ

管理職とはいえ、社会人としての基本的なルールは新入社員や一般社員と同じです。勤務時間や有給休暇の取得、諸経費の精算などは社内ルールに従いましょう。また、管理職になると使える予算枠が増え、裁量も大きくなってきます。取引先との金銭トラブルなど、様々な不正に関与するリスクが出てくるので、それを起こさないように注意すること。管理職みずから襟を正し、部下のコンプライアンス違反をチェックすることが大事です。

2・セクハラ、パワハラ防止の意識を持つ

セクハラ、パワハラは何が許され、何が許されない行為なのか、法令で示されていない社会常識も含んで判断されるため、線引きが難しいのが実情です。社会常識は時代とともに変化します。そのため、日頃からセクハラ、パワハラ防止の意識を持ち、他社の事例を学んだり、「何が許されない行為か」を検討する習慣が必要でしょう。また、自分の言動を部下がどう感じているのかを知っておくため、個別ミーティングでは、業務報告のほかに、雑談タイムを心がけて部下の本音を聞くのも一案です。また、セクハラ・パワハラの判断に迷った時は、社内の法務部やコンプライアンス部などの専門部署に相談することで、新たな知識が増えたり、自分の事例が他部署の管理職に役立つかもしれません。

3・行き過ぎた「成果主義」「会社のため」は×

管理職によるコンプライアンス違反が起こってしまう一因は、「成果を出せば多少のルール違反は許されるだろう」という成果主義と、「会社のためだから仕方がない」という2つの考え方にあるとも言われています。代表例に挙げられるのが談合、商品表示の偽装、粉飾決算、インサイダー取引などです。しかし「会社のため」にやったことで、経営陣だけでなく、不正に手を染めた管理職自身が逮捕され、罪に問われるケースもあります。社命とはいえ、コンプライアンス違反の意識が低いと、行き過ぎた「成果主義」「会社のため」につながります。時には慎重な行動も必要でしょう。

4・ルールの本質を理解する

「会社法・独占禁止法・公益通報者保護法・金融商品取引法」など、政府が企業に対してコンプライアンス体制の構築を求めるような法律が多くなりました。これらを知らなかったために、コンプライアンス違反が起こるケースも増えています。管理職は、自分が属する業界の法律をなぜ守ることが必要なのか、その本質を理解し、チームが誤った方向に向かないよう行動しましょう。

コンプライアンス違反の予防のためにできること

コンプライアンス違反を予防するために必要なポイントをご紹介します。

1・ガイドラインを作る

社内においてコンプライアンス違反を予防するためのガイドラインを作りましょう。情報漏洩が起きないためのデジタル機器やSNSの使用ルールなどです。さらに、万が一違反が起きてしまった時の対応策も、想定される行動のガイドラインを作ることをおすすめします。違反者と思われる社員への聞き取りや調査の進め方、警察への通報、マスコミへの対応などです。

2・部下の手本となるような行動をとる

違反を正す立場の管理職みずからが違反をしているようでは、チームに危機意識が浸透しません。ハラスメントになるような発言、諸経費の虚偽精算など「上司もやっているから自分も許される」とならないよう、部下の手本となるような行動を取る必要があります。上司と同じ時間、同じ空間で仕事をする部下は、上司の言動を見ています。指導する立場としてコンプライアンスを実践し、チーム全体で予防を徹底しましょう。

3・コミュニケーションを活性化して風通しをよくする

普段から部下とコミュニケーションを図り、風通しのよい関係を作るようにしておきましょう。コミュニケーション量が少ないと、部下に指導しにくかったり、問題点や課題の報告が上がってこないことが多くなります。また、コミュニケーション不足の原因から、上司の指示に背いて致命的な問題に発展することも考えられます。部下が心理的に安全だと感じる環境を作るようにし、不祥事の芽を摘むことがコンプライアンス違反の予防になるはずです。

チームや組織のコンプライアンス対応のために学ぶべきこと

ここでは組織やチームの健全なコンプライアンス体制を築くために、管理職が学ぶべき要点を挙げてみます。

1)部下の指導

組織やチームのコンプライアンス体制の構築は、部下一人ひとりにコンプライアンスの実践を促す指導が必要です。それには、

  • 業務の責任を果たす時の基準の持たせ方を知る
  • 悪い情報でも、報告しやすくするための部下の指導のあり方

などを学びます。

2)不祥事の防止

管理職は自分を含めて、不正や不祥事がなぜ起きてしまうかの原因を把握しておく必要があります。そのためには、

  • 不正はどのような時に起こるか?不正が起きる要素を知る
  • 不祥事を防止する組織マネジメントのあり方

などを学んで予防につなげましょう。

3)万が一違反が起こってしまった時の対応

コンプライアンス違反を予防するガイドラインを作ったり、部下に教育を行ったりしても残念ながら違反が起こる可能性はゼロではありません。万が一違反が起きてしまった時のために、

  • 法令の知識
  • リスクマネジメントのあり方

などを学んでおき、迅速な対応ができるようにしておきましょう。

まとめ

現在、コンプライアンス対策の研修はどの企業でも行われていますが、昇進時の階層別研修やテーマ別研修など、単発で行われるケースが主流です。しかし、企業の不祥事が後を絶たない昨今の状況を鑑みると、「形式的に1回研修を行って終わり」では、マネジメントの責任を担う管理職のプレッシャーは大きくなるばかりでしょう。コンプライアンス違反に対する世間の目が厳しくなっていることもあり、最近は役員層も定期的に研修する傾向にあります。マネジメントの中心的役割を果たす管理職についても、この機会に継続的な研修を検討してみてはいかがでしょうか。

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