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「給与デジタル払い」解禁間近!導入のために必要な準備とは?

会社員の給与は毎月1回、決まった日に銀行口座に振り込まれるのが一般的ですが、その「給与」の支払い方法が変わろうとしています。企業が給与について銀行口座を介さずに、デジタルマネーで支払えるようにする「給与デジタル払い」についての議論が、厚生労働省の審議会で進んでいるのです。解禁も間近だと言われている「給与デジタル払い」導入に向け、必要な準備について考えてみましょう。

給与デジタル払いとは?

現在、多くの企業は従業員の給与を現金または銀行口座への振り込みにて支払っていることでしょう。これは、本来の給与の支払いは労働基準法で定められており、「通貨払いの原則」「直接払いの原則」「毎月1回以上払いの原則」「全額払いの原則」「一定期日払いの原則」という5つの原則をもとに支払うこととされているからです。そして、銀行振り込みと証券口座への振込は「例外」として認められています。

「給与のデジタル払いとは、給与を支払う際、銀行口座を介さずに、資金移動業者のアカウントに直接支払うことを指します。資金移動業者とは、銀行以外での送金サービス、いわゆる電子マネーを提供する企業のことで、2021531日時点、国内で80業者が登録されています。よく知られているサービスは資金決済法において規定されている「PayPay」「LINE Pay」「メルペイ」などです。

「給与デジタル払い」についての議論は、厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)にて進められていて、2021年度中の解禁もありそうだとみられています。 

Fintech協会が就労中の対象者に行った「デジタル給与とプレミアム商品券に関する消費者ニーズ調査結果」(20213月実施)では、58%の人が現在の給与受け取り方法について不便を感じているという結果になりました。理由としては、「ATMに並ぶ必要がある」「手数料がかかる」など、現金化して利用する際の不便さが上位に上がっています。また、「デジタル給与受け取り(仮)※」が導入された場合の回答者自身の利用意欲としては、25%が給与の一部を「デジタル給与受け取り(仮)」で受け取ると回答、17%は給与の全額をデジタル移行すると意欲的な回答をしています。

※調査中での表現をそのまま使用しています。

一部の企業では、交通費精算や手当の支給、雇用関係にない業務委託費の支払いなどの給与以外の分野において、デジタル払いが浸透しています。これは、こうした分野については労働基準法での規制がなく、現時点でも可能だからです。ソフトバンクグループでは「ニューノーマル支援特別一時金」の支払いについて、デジタル払いを希望した人には「PayPay」で支払っています。「給与デジタル払い」解禁後は「給与の一部をPayPay払いにすることを検討している」と報道されています。

なぜ「給与デジタル払い」の議論が進んでいるのか

政府が給与デジタル払いの議論を進めている背景には、以下のような狙いがあります。

日本国内でのデジタル化推進とキャッシュレス決済の加速

コロナ禍の日本では、諸外国に比べてデジタル化が遅れていることが浮き彫りになりました。中でも、行政の分野では給付金の申請や納付、企業ではテレワーク環境やペーパーレスなどの遅れについて声があがっています。20219月に「デジタル庁」が創設されたことからも、国が主導となって今後のデジタル技術の普及やキャッシュレス決済の活用を進めていくことが予想されています。経済産業省の「キャッシュレス・ビジョン」では、2027年までにキャッシュレス決済比率を4割程度まで上げる目標が掲げられました。さらに、20207月に作成された「成長戦略フォローアップ」ではキャッシュレス決済比率の目標達成を2025年に短縮されており、政府の推進に向けた意欲の高さが感じられます。

キャッシュレス決済を加速させるためには、決済インフラの見直しと環境整備が必要です。内閣府の「成長戦略実行計画」では、消費者のキャッシュレス決済の利便性を高めるために、銀行以外の決済インフラの見直しやキャッシュレスの環境整備を推進しています。決済インフラについては、銀行以外でも100万円超の送金を可能にするための決済法制の見直しや、多様な金融商品を提供できるよう規制緩和を行う、金融サービス仲介法制の成立などの動きも進んでいます。

キャッシュレスの利便性を高めるためには、キャッシュレスの環境を整えることも必要です。そして、キャッシュレス決済ができる事業者を増やすためには、その事業者の負担を減らさなくてはなりません。そこで、決済事業者に支払う加盟店手数料の見直しや、電力供給停止等の災害時にもキャッシュレス決済を利用できるように環境整備を図る動きが出ています。

給与は生活資金の基盤となるため、「給与デジタル払い」を解禁することは、ここまでに挙げたような日本国内でのキャッシュレス化の加速を促すことにつながります。

多様な人材の確保

少子高齢化により、政府は外国人労働者の受け入れ支援に力を入れてきました。しかし、言葉の壁や厳しい審査により、外国人が国内で銀行口座を開設するのは困難な状態です。そこで「給与デジタル払い」が可能になることで、外国人の雇用拡大につながると期待されています。企業には人材を確保しやすくというメリットが、働く人にとっては支払い方法の選択肢が増えるメリットがあるといえるでしょう。

アフターコロナの新しい生活様式への対応

新型コロナウイルス感染症拡大によって、日常生活でも接触を減らすためにも、デジタルマネーによる決済が定着してきています。「給与デジタル払い」により、新しい生活様式に向けた対策ができるのではと注目されています。

デジタル給与が解禁されるとどうなるか?

デジタル給与が解禁された際のメリットをみていきましょう。

ATMに足を運ばなくていい

「デジタル給与とプレミアム商品券に関する消費者ニーズ調査結果」では、58%の人が給与受け取り方法について不便を感じているという結果でした。現在、キャッシュレス決済は、チャージ式が主流です。デジタル給与が導入されると、銀行口座からのチャージが不要なので、ATMに行かなくてもスマホを使って支払いができるようになります。キャッシュレス決済の利便性も上がり、利用促進にも繋がります。

副業報酬などの支払いがしやすくなる

現在は、主に月1回の支払い日を設定している企業がほとんどですが、これは銀行振込には一定のコストがかかるためです。一方で、副業報酬の支払いは案件ごとなど頻繁に発生したり、仕事内容によっては働いてから支払いまでの期間が長くなったりすることもあります。資金移動業者への振込は銀行振込よりも振込コストが低い傾向にあるため、支払いを複数回に分けても企業のコストは上がらないこと、また受け取り側にとっても、働いてから支払いまでの期間を短くなり、スピーディに報酬を受け取れるメリットが考えられます。

外国人を含めた多様な人材確保に寄与

先ほど、政府が「給与デジタル払い」についての議論を進めている理由でも触れた通り、デジタル払いを希望する外国人を含めた多様な人材を確保しやすくなります。また、期間を定めて雇う際にも、企業の事務処理の負担が軽減でき、人材確保のハードルが下がります。

導入に向けて必要な企業側の対応

「給与デジタル払い」を導入するには、現在の給与規定の支払い方法について確認が必要です。そこで「給与デジタル払い」を導入する場合、給与規定の変更と届出が必要になるケースもあるため、見直しが必要なのかを前もって確認しておきましょう。 

給与システムが対応するかどうか

現在、使用している給与システムが対応できない可能性もあります。改修やシステム変更にどれくらいのコストや期間がかかるのか、確認しておきましょう。

従業員情報の収集・管理に向けた準備

「給与デジタル払い」はセキュリティー侵害による、不正アクセスのリスクがあります。「給与デジタル払い」では、銀行口座情報に代わるデジタルマネーの個人キー情報が必要です。個人キーは個人情報にあたるため情報漏洩がないようにしなければなりません。従業員の情報の収集・管理に向けた準備とどれくらいのコスト・負担がかかるかの確認しておきましょう。

「給与デジタル払い」導入に向けた課題

「給与デジタル払い」導入にはさまざまなメリットがあるものの、実際は、まだ未整備の課題もあります。一つは資金移動業者が経営破綻した時の保証についてです。現在、銀行などの金融機関が破綻した際には、元金1,000万円とその利子は全額保証される預金保証制度が適用され、速やかに払い戻しされる制度が整っています。しかし、資金移動業者の場合は「いくらまで預金が保護されるのか」「破綻から払い戻しまでの手順や期間はどうなのか」など資金保全の課題が残った状態です。安全性については制度化までには対策が打たれる可能性は高いと思いますが、今度の政府の動向には要注目です。給与の担当者は以下の情報を随時確認しておくのがよいでしょう。

参考厚生労働省 労働政策審議会 (労働条件分科会)
https://jma-solution.com/hatarakikatakaikaku/suishin_11/

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