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デジタル庁発足で注目。「リボルビングドア」をどう受け止めるのか?

公開日:2021/11/02 更新日:2023/09/14

202191日に内閣総理大臣、デジタル大臣をはじめとする約600人の職員がリモートで出席し、デジタル庁発足式が行われました。今後はデジタル庁が国のデジタル改革の司令塔となり、官公庁のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進します。

デジタル庁発足において、官公庁内だけではIT人材が足りなかったため、民間と官公庁の間を人材が行き来する「リボルビングドア」という仕組みが導入されたことに注目が集まっています。

デジタル庁とは何か?何をしようとしているのか?

デジタル庁は、各省庁のデジタル化を推進する司令塔となる行政機関です。新型コロナウイルス感染症に伴い、行政サービスや民間におけるデジタル化の遅れが浮き彫りになったことを機に、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を」をミッションに掲げ、発足しました。 

デジタル庁で進めているのは以下のような取組です。

行政機関で共通するデジタル機能の整備・普及

官公庁のDX化を目指します。具体的には、マイナンバーカードの普及を推進、健康保険証や免許証などさまざまな証明カードを統合して、省庁や地方自治体などの行政機関の間でスムーズにデータのやり取りできる状態を目指します。

徹底したUI・UX、国民向けサービスの実現

国民が行政サービスを利用する際に「すぐ使えて」「簡単で」「便利な」サービスを作ります。最初から最後までデジタルで完結でき、国民にとって分かりやすいサービスを目指していきます。

国等の情報システムの統括・監理

国の情報システムの整備と管理の基本方針を策定し、国と地方のシステムを標準化や統一化を図ることで、連携しやすくすることを目指しています。また、システムが方針に従っているかなどの審査も行っていきます。

デジタル庁は600人体制でスタートしました。その際に、官公庁内の人員だけでは専門性の高いIT人材を確保するのが難しく、約200人がインターネット関連企業などの民間から登用されました。

「リボルビングドア」とは何か?

「リボルビングドア(回転ドア)」とは、官公庁と民間企業との間で、人材が流動的に行き来する仕組みのことです。回転ドアを通るように、官民を人材が自由に出入りします。

日本では、これまでも国と民間企業との間の人事交流を行う「官民交流人事」が行われてきました。しかしリボルビングドアは、1人の人が官民間での行き来を繰り返すという点で、従来の官民交流人事とは異なっています。今回のデジタル庁発足に伴う人事は、日本ではじめてのリボルビングドアの大規模事例となりました。

一方、アメリカでは、すでにリボルビングドアが浸透しています。2012年にホワイトハウス科学技術製作局が、PIF(大統領府技術革新フェロー。民間、非営利団体、大学などの組織から専門性の高いIT人材を一定期間迎え入れて政府サービスや政府ITの変革を進める取り組み)プログラムを組織したことを機に、18F(アメリカ政府機関)やUSDS(アメリカデジタルサービス)などアメリカの官公庁でリボルビングドアを実践する組織が増えています。

人材視点で見た「リボルビングドア」のメリット

人材視点で見ると官公庁と民間、双方にとってメリットがあるといわれています。官公庁側のメリットは、特定分野における専門知識や技術を保有する人材の確保ができることです。また、民間企業のメリットは、官公庁という特殊な環境での職務経験や人脈をもつ人材を活用できることです。技術者個人にとっても、国の情報システム構築に関わることは高く評価され、キャリアとして貴重なステップになります。

「リボルビングドア」の課題

リボルビングドアにはメリットがある一方で、日本で定着するためには課題もあげられています。

まずは癒着の問題です。現在、政府や自治体のシステムは大手のITベンダーが取引してきたケースが多くなっています。そこで、システムの調達や整備をめぐり、官公庁に社員を派遣した企業のシステムが受注しやすくなるなどの癒着が行われないように、公平性を確保しなければなりません。

また、官民を行き来する中での情報管理も問題になるため、民間出身者にどこまでのアクセスの権限を与えるのかも課題としてあがっています。

処遇面にも課題があります。新卒採用を前提にしている官公庁の人事制度では、一度民間に出た後に官公庁に戻るいわゆる「出戻り組」は、官公庁だけでキャリアを重ねた同期と比べると、ポジションが下がりがちです。また、官公庁より民間企業の方が年収の高いケースもあるため、出戻りを思いとどまる人も想定されます。そのため、デジタル庁では収入の補填のために非常勤職員には兼業・副業が認めるなどしていますが、優秀な人材を確保するにはさらなる施策が必要とされています。

「リボルビングドア」を企業はどう受け止めるのがよいか?

企業が「事業収益性の実現」と「目指す社会の実現」の両軸を考えながら自社製品・サービスを社会実装していく中で、「リボルビングドア」により官公庁と民間の両方で働いた経験をもつ人材が集まると、その人脈や知見により、企業にとって実現可能なことが増えていくでしょう。

たとえば、環境問題を中心とした社会課題を解決するためのスマートシティの取り組みや、持続可能なエネルギーを利用して環境を保護するグリーンテクノロジーなどの実現には、「民」単独ではなく「官」との連携が不可欠だと言われています。自治体や開発地区との連携や、テーマごとの戦略を横串でつなぐためには、官が入らないと計画が進まないこともあるのです。

リボルビングドアという仕組みを使って自然に築ける貴重な人脈や官公庁との相互作用は、民間企業にとってもチャンスにつながるはずです。

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