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これからの健康経営に欠かせない「ウェルビーイング」とは?

公開日:2021/06/22 更新日:2023/09/14

従業員の健康をサポートすることよって企業全体の生産性や業績の向上につなげようとする経営課題の一つ「健康経営」。そこにウェルビーイングという新たな視野を取り入れる企業が増えています。まだあまり馴染みのない言葉ですが、そこには大きな期待が込められています。

ウェルビーイング

ウェルビーイングとは何か

ウェルビーイングとは人間が身体的、精神的、社会的に「満たされている」ことを意味する概念で、予防医学や看護、福祉で使われている専門の用語です。この言葉が有名になったのは、健康とは何かを定義するWHO(世界保健機構)の憲章前文で使われたことがきっかけでした。
「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.」
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態である」というものです。(日本WHO協会訳)

じつはウェルビーイングには、一言で表現できる日本語がないため、いまだ定訳がありません。「満たされている、満足」のほかに「良好、幸福、快適、安寧、福祉」等さまざまな訳があります。そもそもウェルビーイングが指す概念も幅広く曖昧で、日本でも英語圏でも定まってはいません。そのような語が産業界で一気に注目されたのは、「GDPを測る新たな指標は、モノではなくてウェルビーイングである」と世界の経済学者たちが言い出したことからでした。

ウェルビーイングの概念は「健康経営」にも大きく関連します。
そこで、ウェルビーイングの概念を踏まえて「健康経営」を説明してみると、「従業員が心身の健康はもちろん、会社や所属チームとの関係も良好で、プライベートにおいては家族や仕事以外でも満たされて人生をポジティブに捉えられている状態である。それによって仕事のパフォーマンスは上がり、達成感や実績を作ることができ、会社全体の活力につながっている」ということになるでしょう。

ウェルビーイングと混同されやすい概念に、ウェルネス(Wellness)やエンプロイーサティスファクション(Employee Satisfaction)があります。ウェルネスは、従業員の身体にフォーカスし、運動を日常生活に取り入れて健康的に仕事に従事してもらおうというものです。またエンプロイーサティスフィクションは、従業員の「仕事のやりがい」や「職場に対する満足度」に焦点をあわせ、会社全体を成長させようとする概念です。一方、健康経営のウェルビーイングは、ウェルネスやエンプロイーサティスフィクションの効果を内包しながら、従業員の「会社外」の時間も満たすように支援し、結果、会社の成長や活力を底上げする考え方といえます。

なぜ今ウェルビーイングが注目されているのか

健康経営にはウェルネスだけでは不十分であり、人間の状態を中心に考えるウェルビーイングを目指すべきという認識が国際的な潮流になっています。そのように言われる理由をあげてみましょう。

従業員のパフォーマン向上につながる

健康経営にウェルビーイングを取り入れると、従業員のパフォーマンス向上につながることが組織行動論の研究によって明らかになっています。しかも「健康・欠勤・モチベーション・創造性・人間関係」等、パフォーマンスを上げるための複数の要素が、まとめて一気に高まる可能性があることが示唆されています。

組織力を強化するためには、当たり前のことですが従業員一人ひとりのパフォーマンスを向上させる必要があり、そのことが各企業にとってつねに大きな課題となっているはずです。実際、健康経営にウェルビーイングをいち早く取り入れた国内のある企業では、コロナ禍にも関わらず従業員のパフォーマンスとエンゲージメントは上がり、ストレスは下がったという報告があります。

ミレニアル世代がウェルビーイングを望む

会社内の従業員や求職者の中心がミレニアル世代へと世代交代が始まっていることも、ウェルビーイングが注目される理由です。この世代は若い時期からウェルビーイングの概念に馴染んでおり、仕事を選ぶ際の基準は「やりがい」や「達成感」に重心をおきます。待遇面でも高報酬を望むよりプライベートも充実させたい、あるいは自分の身の丈にあった生活を大切にすることを望みます。

「働き方改革」の方向性と合致する

政府と一体となって推し進める「働き方改革」の目指すべき方向に、ウェルビーイングの概念が合致することも注目される理由の一つです。「働き方改革」、従業員の健康を保障する「働きやすさ」と、キャリア形成を支援する「働きがい」のある環境構築、つまり「人材」を中心に据えた施策を目指します。そこに会社全体の生産性や業績を向上させるためには、ウェルビーイングの視点が有効かつ欠かせない概念であることを企業が認識し始めています。

ウェルビーイング達成のための施策

ウェルビーイングの状態は個人の主観によって判断するものですが、それを組織として実現させるために企業側は具体的に何ができるのか、身体・精神・社会の要素からご紹介しましょう。

身体面からの施策

従業員の健康は、業務のパフォーマンスを上げるための根幹になります。法定健康診断、各種がん検診、禁煙指導等はやはり有効です。また健康を保障するための長時間労働の是正や、休暇を取りやすくする等の「働き方改革」との連動も必要でしょう。企業によっては予防接種の補助やヘルスリテラシー向上のための栄養・運動セミナー開催等、幅広いプログラムを取り入れています。

精神面からの施策

「労働安全衛生法」の改正により2015年から義務化された「ストレスチェック制度」の創設、従業員向け・管理職向けのメンタルヘルス研修、産業医や保健師が常駐する相談窓口の設置等の施策が考えられます。

さらにウェルビーイングの視点を加味すると、従業員の業務におけるストレスに限定せず、プライベートでの心配ごと等も相談できるような環境作りが大切でしょう。また、新型コロナウィルス感染拡大による将来への不安等を緩和し、今やるべき業務に意識が集中できて効果を出しやすくなるマインドフルネス(※)の導入もウェルビーイング達成に有効です。

※マインドフルネスを組織開発に活かす
https://solution.jma.or.jp/column/c210510/

従業員を孤独にさせない対策も重要になります。孤独が個人や組織のパフォーマンスに悪影響を与え、なおかつ健康を害して身体面、精神面、社会面の全てにおいてウェルビーイングを下げることが明らかになっているからです。その対策として、日本人の場合、「家族」「生きがい」「職場の雑談」を大切にすることが有効であると指摘する専門家もいます。具体的には、職場に長時間拘束しないで家族と一緒にいられる時間等を保障する労働時間の是正や従業員の帰属意識作り、雑談しやすいオフィス空間のデザイン作り等が考えられます。
現在のコロナ禍の視点でみた場合、在宅が増えて家族と一緒にいられる時間が増え、職場に長時間拘束されない働き方に変わりつつあるので、ウェルビーイング達成の視点で見るとプラスの側面をもたらしているといえます。ただし職場の雑談は減っているため、家族と離れて一人で暮らす従業員にはサポートが必要でしょう。

社会面からの施策

従業員が仕事や組織、待遇に対して満足できる人事制度や昇進・昇給制度の構築が考えられます。またウェルビーイングを視野に入れると、会社の中の満足だけでなくプライベートでも満たされる状態でいられるサポートも必要になってくるでしょう。例えば、個人の価値観を否定しないダイバーシティ&インクルージョンの推進(※)、育児との両立ができる事業所内の託児所設置、従業員の家族も満足できる福利厚生の充実化等が考えられます。企業によっては事業所のある地域との交流作りに取り組んでいる事例もあります。
社会的な満足度を高める施策については、自社の全従業員のカラーによるものも大きいため、まずは従業員のバックグラウンドの把握が必要になってくるでしょう。

※ダイバーシティ&インクルージョン研修とは?
https://solution.jma.or.jp/column/c210330/

ウェルビーイングを高めることで企業は何を得るか

国内外の研究者たちによって、ウェルビーイングを健康経営に取り入れることで従業員へのメリットがわかってきているので、その恩恵をご紹介しましょう。

従業員のパフォーマンス向上が得られる

組織行動論の研究によると、ウェルビーイングが高まれば仕事上のパフォーマンスは一気に向上することが明らかになっています。つまり、パフォーマンスに関する要素ごとに一つ一つ対策をとるよりも、従業員のウェルビーイングに直接アプローチするほうが、複数の要素を同時に解決する可能性があることが示唆されているというわけです。

従業員のエンゲージメントの向上が得られる

企業が「従業員のパフォーマンス向上」と同じくらい望むことは「エンゲージメント向上」です。エンゲージメントは「仕事・職場に対して熱意を持って取り組んでいること」と定義されていますが、従業員のウェルビーイングが達成すると、それに連動してエンゲージメントも高くなるとも言われています。これまで従業員のエンゲージメントを高めることに課題があった企業は、視点をウェルビーイングに替えることで、解決の道が開くかもしれません。

すでにウェルビーイングを健康経営に取り入れている企業は、産業医、人事、管理職(マネージャー)が主体となって取り組み、着実に効果が表れているという報告もあります。今後は、産業界全体でウェルビーイングの研究や議論がより活発化し、科学的知見も蓄積されてくると思われます。そうなると企業の成長に有効かつ欠かせない概念となりうるので、いまから注目しておきたいところです。

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