5分でわかるビジネストレンドワード

人材育成も含まれる?「ESG」について学ぼう

公開日:2021/06/15 更新日:2023/09/13

ここ数年の間で、SDGsやCSRとセットで「ESG」という言葉を耳にする機会が増えました。2000年後半から「ESG投資」という言葉を用いることが多くなり、それとともにESGの重要性が認識され始めています。

人材育成

ESGの定義について

「ESG」とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)という3つの単語の頭文字を組み合わせた造語です。注目されるようになったきっかけは、投資家や金融機関の投資判断を変えるための言葉として国連が提唱したことです。従来、企業価値は主に業績や財務状況で測られてきましたが、近年では、「企業の安定的かつ長期的な成長のためには、ESGへの取り組みが重要である」という考え方が広まりつつあります。

「CSR」や「SDGs」との違いは?

ESGと比較されやすいのが「CSR」や「SDGs」です。それぞれの特徴や違いをみていきましょう。

CSRが「企業の社会的責任」であるのに対し、ESGは「環境・社会・ガバナンスへの取り組み」を意味します。CSR活動は株主や顧客、従業員といった「ステークホルダー」から信頼を高めることを目的に行われます。これに対してESGの場合、社会全体の利益を重視するべきだという考え方はCSRと似ていますが、「投資家側の視点」が追加されるのが特徴です。CSRという語は主体が「企業」で、企業の倫理的な責任に重きを置いているのに対し、ESGは企業側・投資側双方の視点から、企業がより主体的に事業の中に取り入れるべき戦略的な観点であるという違いがあります。

SDGsは「持続可能な開発目標」を意味します。SDGsは「国」や「地方自治体」、「企業」が主体となって取り組んでいくものであることに対し、ESGは主体が企業や投資家です。企業がESGに取り組むことによりSDGsの目標達成につながっていくという関係性で、ESGはSDGsの実現に向けたプロセスの1つと言うこともできます。

そもそも「ESG投資」とは何か?

ESG投資とは、「環境」と「社会」、「企業統治」の3つから企業を評価し、投資先を決める投資方法です。従来、投資家は「業績」や「財務状況」を元に投資先を決めてきましたが、ESG投資では企業の安定的・長期的な成長の指標としてESGを用います。

この変化は、2006年に国連が「責任投資原則」を発表し、持続可能な社会の実現に向け、機関投資家が投資先を決定する際にESGの要素を配慮するよう提唱したことで起こりました。そのため、投資判断の新たな観点として企業や投資家から注目が集まっています。

財務省の広報誌「ファイナンス」(※)によると、2018年時点のESG資産保有残高は欧州が14兆750億米ドル、アメリカが11兆9,950億米ドルに対し、日本は2兆1,800億米ドルと遅れをとっています。しかしながら日本のESG投資の伸び率を2016年からの3年でみると約8倍になっています。こうしたことから、日本のESG投資市場は今後拡大していくことが見込まれています。

※「ファイナンス」(令和2年1月号)
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202001/index.html

世界のESG投資の統計を行っている世界持続可能投資連合によると、ESG投資を実践する手法は次のような種類に分類されます。

・ネガティブ・スクリーニング

「論理的でないもの」「環境破壊につながるもの」を除外する投資方法です。「武器」「たばこ」「ギャンブル」「動物実験」などの業種に属する企業が除外されます。

・ポジティブ・スクリーニング

ESG関連の評価が総合的に高い企業・銘柄を選別して投資する方法です。

・国際規範スクリーニング

ESG分野における国際基準を基に投資先を決める方法です。

・ESGインテグレーション

これまで活用されてきた財務状況とESGに関する情報を総合的に判断し、投資先を決める方法です。

・サステナビリティ・テーマ投資

サステナビリティをテーマにした企業やファンドへの投資方法です。再生可能なエネルギーや持続可能な農業、エコファンド・水ファンドなどといった投資先があります。

・インパクト・コミュニティ投資

社会や環境に対して大きなインパクトを与える企業に投資する方法です。財務パフォーマンスよりも社会や環境へのインパクトを重視する投資家と双方を重視する投資家がいます。

・エンゲージメント・議決権行使

他の6つの投資法は投資先の選定に関わるものですが、エンゲージメント・議決権行使は投資家との関わり方に関連した手法です。「エンゲージメント」とはこの場合、株主としての立場で企業のESGに積極的に働きかけることであり、エンゲージメントより企業への影響力が大きいのが議決権行使です。株主総会で議決権を行使し、企業の意思決定に直接関わります。

人事担当者ができるESG関連の取り組みについて

人事分野で投資家が注目するポイントと、それに対して人事担当者が中心となって推進できるESG関連の取り組みには、次のようなものが考えられます。

・ダイバーシティの推進

働きやすい環境を作るために、多様な従業員を前提に格差や不公平をなくしていく、ダイバーシティ推進が求められます。人事部門は育休・時短勤務・在宅勤務の整備などを整えることができるでしょう。

・労働安全衛生

従業員のケガや疾病を防止することで 健康や安全を確保することが重要です。経営層や上層部が直接現場に関わることは困難なため、人事部門が健康診断の実施、防災訓練などを整える必要があります。

・人材育成

社員のスキルに対して適切な育成カリキュラムを整えることが求められます。海外投資家の中にはOJT研修以外にOff-JT研修への投資総額・総時間に注目するケースもあります。

・雇用確保

非正規従業員の数や正規・非正規従業員の合計に占める割合をESGの基準にする投資家もいます。そこで人事部門に求められるのは、風通しのよい労使関係を維持することです。労働組合と連絡を取り合い、人員削減を極力抑える努力が必要とされます。

ESGに取り組む企業は今後も増加していくことが予想されます。その中で投資家から評価されるためには、人事部門の取り組みも一つの鍵になっていくでしょう。

●関連情報

【コラム】「人材ロス」の解消へ。「サーキュラー・エコノミー」の視点で人事を捉える

【資料ダウンロード】ポストコロナを生き抜く次世代経営者育成のためのアンラーニングを検討する

【コラム】オープンイノベーションは製造業・非製造業の区別なく重要|日本企業がオープンイノベーションを進めるには その1

【コラム】オープンイノベーション実現に向け、長い時間軸とメタ視点で予算と組織を再設計する|日本企業がオープンイノベーションを進めるには その2