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シチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論)

公開日:2021/06/01 更新日:2023/09/14

人材の多様化に伴い、個々の組織に合わせたリーダーシップに注目が集まっています。そこで今回は、新しいタイプのリーダーシップとして、「状況対応型リーダーシップ」とも呼ばれるシチュエーショナル・リーダーシップを紹介します。

リーダーシップ

シチュエーショナル・リーダーシップ(SL理論)とは

Situational Leadershipのシチュエーショナルは「状況の」「場面の」という意味で、シチュエーショナル・リーダーシップは「状況にあわせたリーダーシップ」「状況対応型リーダーシップ」と訳すことができます。シチュエ―ショナル・リーダーシップに関する理論は、リーダーシップ理論の1つとして、頭文字をとってSL理論と言われています。

この理論は、1977年に行動科学者でカリフォルニア・アメリカ大学大学院教授を務めた行動科学者のポール・ハーシーとマサチューセッツ大学教授を務めた組織心理学者のケン・ブランチャードによって提唱されました。

SL理論以前のリーダーシップの概念では「最善の正しいリーダーシップ」があるとされていましたが、SL理論は「リーダーシップには唯一絶対の正解がない」という前提のもとで提唱されたものでした。全員に対して画一的なリーダーシップの型で対応していては、必ずそれに合わない社員が出てきます。そこで、部下一人ひとりのスキルや、モチベーションに合わせて適切な方法を使い分けながら指示と支援を提供するのが最適なリーダーシップであるとしています。

部下の4つのタイプとそれぞれに最適なリーダーシップ

SL理論では部下を4つのタイプに分け、それぞれに合った4タイプのリーダーシップがあるとしています。

部下のタイプ分けは、モチベーションの高さと能力の高さをもとに行います。

それぞれにふさわしいリーダーシップの軸となるのは、リーダーシップの基本行動である「指示的行動(仕事志向)」「援助的行動(人間関係志向)」の2つです。指示的行動とは、指示・命令・監督・統制・チェック・コントロール機能などで、部下に「何を・どうやって・どこで・いつ」と細かく指示を出すこと全般を指します。一方、援助的行動には、部下への質問と傾聴・支援・援助・賞賛・激励が含まれます。部下の話を聞き、援助しながら問題解決を促す指導方法を指します。

部下の4つのタイプ

部下のタイプは次の4タイプに分けられます。

  • S1:モチベーションは高いが能力は低い
    新人、他部署から異動してきた社員、転職してきた社員などが該当します。
  • S2:モチベーションは低く、能力は低〜中程度
    仕事を少しずつ覚え、自分の判断で進められる業務が多くなってきた状態の社員が該当します。
  • S3:モチベーションはその都度変化し、能力は中〜高程度
    仕事の目的や意義を理解し、ある程度の業務は単独で行えますが、難しい業務においては、意思決定や単独遂行に不安がある状態の社員が該当します。
  • S4:モチベーションも能力も高い
    権限を委任することもできる、頼れる社員が該当します。

部下のタイプ別にふさわしいリーダーシップの型

部下のタイプに合った4つのリーダーシップの型は次のとおりです。

  • S1:指示型・教示型
    意思決定はリーダーが行い、部下に具体的な指示命令を与え、仕事の達成までの進捗を細かく管理するスタイルです。友好的な人間関係を築くことよりも仕事の達成度を高めるサポートを重視します。
  • S2:コーチ型
    リーダーは指示型・教示型と同様に指示命令を与えますが、部下の意見やアイデアを引き出すために援助もします。リーダーの一方的な指示ではなく部下とのコミュニケーションを取りながら進めるスタイルです。リーダーは部下の仕事の達成度と部下との人間関係構築にも努めます。
  • S3:援助型
    意思決定は部下が行い、リーダーは部下が目標を達成するまでのプロセスを援助します。リーダーは意思決定の責任を部下と分かち合うスタイルです。
  • S4:委任型
    進捗状況の報告は受けますが、リーダーは意思決定と問題解決の責任を部下に任せるスタイルです。

これらのリーダーシップの型を部下の成長に合わせて使い分けていきます。

さらに、部下の強み、弱みによってリーダーシップの型を使い分けながら対応するとより効果的です。例えば、お客さんとのコミュニケーションを取ることが得意(強み)で、スケジュール管理が苦手(弱み)な部下の場合には、お客さんとの折衝についてはS3援助型〜S4委任型、スケジュール管理については、S1指示型・教示型と使い分けて対応することができます。このように、一つの決まりきった型でリードするのではなく、部下の状況に合わせて変化させるのがシチュエ―ショナル・リーダーシップです。

SL理論が有効な組織

SL理論が効果的な組織の課題として、以下のようなものが挙げられます。

  • リーダーがリーダーシップに欠けている
  • リーダーのリーダーシップの型が決まっている
  • リーダーの部下育成力が弱い
  • リーダーと部下との関係性がよくないため、組織のモチベーションがあがらない

これらの課題の原因の一つに、リーダーが、自分好みの決まりきったリーダーシップの型で全ての部下や状況に対応していることが挙げられます。その解決法の1つとしてSL理論に注目が集まっているのです。

SL理論がもたらす組織へのメリットとは

部下が持っているスキル度合いやモチベーションはそれぞれ異なります。部下の状況に合わせたSL理論には以下のようなメリットがあります。

  • 部下の能力が上がる
    それぞれの部下に合った指導ができるため、部下の能力を開花させやすくなります。目指す成果に向けて、個々の問題解決能力も高まります。
  • 定着率が向上する
    部下の達成感や責任感、充実感が高まり、組織における自分の価値を感じられるようになることで、エンゲージメントが高まります。その結果、定着率の向上につながります。

今回は、シチュエーショナル・リーダーシップ理論(SL理論)をご紹介しました。一人ひとりの部下の能力を高め、組織を活性化するために、複数あるリーダーシップの型を状況に合わせた使いわけをしていくことが効果的です。とりわけ「個の時代」と言われる現在において、シチュエ―ショナル・リーダーシップを取り入れていく意義は大きいといえるでしょう。

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