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がっかりする覚悟はありますか?|相手に「正対」する人材育成 Vol.1

公開日:2015/11/05 更新日:2020/05/06

研修の最前線で活躍する講師へのインタビューを通じて、人材育成について考えるシリーズ。

階層別マネジメント、プロジェクトマネジメント、技術部門のリーダー育成等のテーマで活躍する関根利和講師が、技術部門にとっての”組織マネジメントの重要性”と”人材育成の意味”について語ります。

会社が崩れた経験から、マネジメント分野のコンサルタントに

―関根さんが技術部門のマネジャー育成というテーマに携わるようになった経緯やきっかけについて、まず教えてください。

(関根)
私はもともと、IT技術者でした。31歳のとき、会社を立ち上げました。
バブル期の最後には20人ぐらい社員がいましたが、バブルが弾けて木っ端微塵になりました。その理由は、技術さえあれば仕事が来ると、経営者の私が思っていたからです。
看板、人脈、うまくやるためのチームワーク、社員の育成など、技術とは全然違うところから、会社が崩れていったのです。

―そうした点には力を入れていなかったのですか。

(関根)
P1050049全く分かっていなかったので、力を向けていませんでした。そんなところから、会社が崩壊することさえも知りませんでした。技術さえあれば何でもできると、信じていましたからね。
仕事ができ上がることと、でき上がって組織を作って運営することは違いますよね。
自分で仕事を取ってきて、一人で仕事をし、他の人は何もしないのでは結局、経営者ではなく技術担当のままです。

「私は何をしたらいいですか」というメンバーがいたら、その分お金を無駄に食いつぶしていることになります。だから結局うまくいきませんでした。その時に痛感したのが、経営の結果を出していくためには、「技術以外の仕事もとても重要だ」ということです。

他方でIT系のセミナーでの指導もずっとやらせてもらってきました。テーマの1つに、ソフトウエアのマネジメントがあります。
大切な点は、どうすればソフトウエアやシステムなどのIT製品をお客さんに喜んでもらえるのかということです。会社運営の失敗を経験したことで「技術以外のことをちゃんとやらないといけない」と思い直しました。

私は専門的な技術が好きで、興味を持っています。でも、技術はどんどん変わるし、自分以外の他の人ができることでもあります。

だから、マネジメントする側になったら、一技術担当とは異なるその役割を自覚しつつ、技術者としっかりやり取りもできなければいけないとも思っています。

技術部門のマネジメントの難しさは?

―やはり現場感があって話がわかることが求められるのですね。

(関根)
技術を理解していなければいけないところが、技術部門のマネジメントの難しいところです。技術部門で畑違いの部門へ移った人は、みんな同じような悩みを持っています。
今会っている研修受講者からは、「僕らの話が全く伝わらないときは、どうすればいいか」という質問が毎回のように出てきます。

―顧客からの要望や商品の機微について、他部門から来たマネジャーが理解しきれていないことに、担当者も悩んでいるかもしれませんね。

(関根)
技術以外の部門も同様の悩みはあると思いますが、技術系部門の専門性の差は非常に大きいと思います。あまりにも専門的になると、とてもついていけません。でも実際にマネジャーになると、仕事のパフォーマンスを上げ、他部門などと様々な調整をしなければいけません。だから、技術を分かっていることが必要なのです。

技術が分からないまま長になったとしたら、単純に「売り上げを上げろ」と尻を叩くだけで終わりになります。無謀なことだって平気で言えるかもしれません。
上司と部下の距離感は広がって、誰もついていかなくなることも起こりえます。

―マネジャーを目指したいと思う人も、そういう意識や覚悟が求められますね。

(関根)
特に、技術系や研究開発系のトップになる人は必要だと思います。
技術において優秀であっても、マネジメントも優れているとは限りません。

それで、これから“プロジェクトマネジメント”というテーマも力を注いでいかないとと思っていた時に、「階層別研修の講師を探しています」と声をかけられたのが、JMAでマネジメント系の研修を担当するようになったきっかけです。それ以前は「マネジメント」の「マ」の字も曖昧にしか理解していませんでした。

でも、“教える”ということは教える本人が1番、勉強になるものです。だから、貪欲に勉強しましたよ。経営学を遡り、なぜ今、こういうことを教えるのか考えながらやってきました。

15年以上にはなりますかね。40代後半のころには自分より若い人を教えていました。
50代になると、同じ年代の人たちが相手です。今はみんな、自分より年下になりました。

―既任のマネジャー向けもあれば、その手前の人も対象ですか。

(関根)
これからのマネジャーとして期待される、プロジェクトリーダークラスが多いですね。

「上司として”がっかりする覚悟”はありますか?」

―あらためて、「マネジメント」というテーマの重要性についてお考えを聞かせてください。

(関根)
マネジャー、リーダーのマネジメント能力は、人の育成に格別大きく関わってきます。しかし技術者はマネジメントやコミュニケーション、人材育成に正面から立ち向かおうとしない傾向があるのです。

―苦手意識があるのでしょうか。

(関根)
人材育成に対する苦手意識は払拭しなければなりません。
私は技術者こそ、それらに正面から取り組まないといけないと思うのです。
本当はむしろ、技術者の方が「不案内なことを探究し学ぶ」のが得意なのではないでしょうか。

技術者に限らず、そもそも人を育てることがなぜ大事なのか、考えなくてはなりません。
業績のことだけを考えたら、経験豊富な上司が自分でやった方が早いです。できない人には任せたくない、という力が働きます。
でも、任せないと人は育たないものです。 私はいつもこう言っているのです。

「能力というものは、どうやったらできるかを分かって、実際に行動や結果を出せることだから、部下が経験したことのないことをやり、答えを出せるようになったら、能力向上でしょう」とね。

ということなら、部下には今までに経験していないことをやらせるしかありませんよね。
でも、それはリスキーな部分を大いに含んでいます。だから、上司として「がっかりする覚悟はありますか」と、問いかけるようにしています。
この問いはとても重要なことです。

本気でがっかりする覚悟もない人が、人材育成なんて言葉を出しても、すぐにばれますよ。

~つづく(1/5)~

◆関根 利和(せきね としかず)プロフィール◆

1954年生まれ。1977年埼玉大学理工学部 卒業
外資系自動車部品メーカー勤務を経て現職。数多くの企業において、人材育成、目標管理制度、業務分析、プロジェクト支援、ネットワークの構築・運用管理等のコンサルティングを手掛ける。特に人材育成では、経営幹部から管理職、中堅層まで幅広く対象としている。豊かな経験を踏まえた実践的で明快な指導には定評がある。”難しい話をわかりやすく”がモットー。