JCB【経営幹部育成】

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次世代経営者・経営幹部育成

米国発の国際ブランドとの提携が主流のクレジットカード業界において、自らが「日本発唯一の国際ブランド」として独自の躍進を続けるジェーシービー。専門知識はもちろん、広い視野、人間力をも兼ね備え、 同社のチャレンジをリードするリーダー人材の育成法とは?
株式会社ジェーシービー 人事部部長 平岩 泰行様にお話を伺いました。(所属・お役職はインタビュー当時)

 “日本発唯一の国際ブランド”として成長を続ける

ジェーシービー(以下、JCB)は1961年に設立され、日本におけるカード業界のパイオニアとして、社会の変化や人々のライフスタイル、ニーズに合わせて事業を拡大し、「総合決済ソリューション企業」をめざして成長を続けている。
1981年に独自の海外展開をスタートさせてからは、「真のグローバル・ブランド」を目標に、世界を舞台に現金によらないさまざまな決済サービスを提供しつづけており、“日本発唯一の国際ブランド”が、業界における同社の代名詞になっている。

 競争激化のなかで求められるたゆまないチャレンジ

JCBIMG_0805「日本におけるクレジットカード決済の比率は、いまも年々上昇を続けています。
その意味では成長産業といえますが、同時に、国内外を問わずより多様なサービスが求められています。
交通系ICカードなどの浸透で、非現金の決済が一般化するのに伴って業界全体の事業領域が拡大する一方、
異業種からの参入など競争は激化しています。こうしたなかで、わが社はさまざまなチャレンジを繰り返し、
成長軌道を維持してきました。今後もチャレンジ精神をもってより良いサービスを生み出しながら、成長を続け
たいと努力しているところです」と、業界の動向やJCBの
置かれた状況を説明するのは、人事部部長の平岩泰行氏だ。
平岩氏は、JCBにとってのリーダー像を「変化の激しい時代にあって、先進性と独自性を特徴とするJCBという事業体を引っ張っていく人材」と語り、「当社の事業の特性として、営業・システム・オペレーションなど複数の事業体が一つになって動くことが大切です。だからこそ、リーダーにはそれらを見渡す複合的な視点に加え、社内外のステークホルダーの利益を高い次元でマッチさせる能力、それを支えるコミュニケーション力や情報収集力、人間性まで含めた“総合力”が求められます」とリーダーに必要な要素を挙げる。そして、「そういった人材をいかに育てるかは、常にわが社の大きなテーマです」と、JCBにおける人材育成の重要性を強調する。

「 理論と実践」と「“再現性”の発揮」が人材育成のキーワード

平岩氏は、JCBにおけるリーダー人材育成のキーワードとして、「理論と実践」「再現性の発揮」の2点を挙げる。「MBA的なセオリーが世の中にあることを理解することは大切。同時に、机上の理論だけでは通用しないのも事実。”机上の理論“と”現場
の実践“の一方に偏らず、スピーディーに両方を往復しながら高い質の意思決定ができる能力を高めていくことが重要だと考えています。また、成果の発揮においては、あらゆるポジションや状況において継続的に良いパフォーマンスが発揮できる”再現性“をもつことが、リーダーには欠かせません」「理論と実践の両面から考え続けることで、複雑に変化する状況下でも複眼的に物事を捉え、リーダーとして求められる高い視座や視点から考える力が身に着くのだと思います」と解説する。

 階層に応じて人材育成研修を実施

JCBでは、「若手層」「中堅層」「管理職層」の3つの階層に大きく区分し、OJT、Off-JT(研修)、自己研鑽を三位一体とした教育体系をベースに人材育成に取り組んでいる。
リーダー育成研修は、階層に応じて段階的に行われているが、なかでも将来の経営層の育成を目標に、選抜式で行われているのが「次世代リーダー研修」で、実績などを参考に次長層から毎年10~15人の受講者を選び、5単位・12日間(期間 は約5ヵ月間)をかけて行う充実したプログラムである。選抜式であることからもわかるように、この研修の参加者は、個人としてのビジネススキルや若手を育成する能力などはすでに持ち合わせていることが前提だ。

JCB2(右図:2014年度JCB様研修体系の一部※クリックして拡大ください)

JMAの提案力、総合力を評価し「次世代経営者・経営幹部育成」プログラムを採用

「次世代リーダー研修」に取り組むにあたり採用したのがJMAの「次世代経営者・経営幹部育成」プログラムで、採用の理由を平岩氏は、「理論と実践の両立という、わが社が求めるリーダー研修の枠組みを理解し、高いレベルでカスタマイズしたプログラムを提案してもらえたことが第一。これは受講者の納得感という意味でも非常に重要です。また、わが社が抱える課題を相談すると、一緒になって解決策を考えてもらえました。リベラルアーツの強化や経営者のより深い関与など改善を重ねるにあたり、こちらの思いを汲んで提案してもらえたのも大きい」と説明する。
JMAについては、「実績に裏打ちされた総合力が大きな武器であり、それがわれわれユーザーにとっての安心感につながっています」との評価をいただいた。

研修の最大の目標は本人の気づき

「次世代リーダー研修」のプログラムは導入して4年が経過している。平岩氏によれば、なかでも特徴的なのは、第5単位の「コミットメント」において、経営陣と受講者が激しい議論を戦わせながら価値観のあぶり出しを図る点だという。
「コミットメントとは成果報告会のことですが、これが実は経営会議さながら。 経営陣はいっさい手加減せず、容赦ない質問や意見を浴びせ、プランの完成度、受講者一人ひとりの本気度を浮き彫りにしていきます。 受講者は否応なく自らの能力や姿勢を振り返ることになる。 想定外の質問や判断がつかない質問への対応、発表時に「うまく質疑に応じきれなかった」と残る“ザラついた気持ち”、 修羅場の体験などなど……。 コミットメントでこうした経験を通じて、リーダーの意思決定やあり方について気づきを得てほしいがために、長期間のプログラムを受講してもらっていると言っても過言ではありません」と平岩氏。 コミットメントには人事部長も同席し、質問への対し方などに目を光らせている。
また、発表会後には、それぞれのプランに関連する事業を所管する部署の部長に、経営陣とのやりとりも含めた報告を行い、各部署での事業化のヒントにも役立てている。併せて、受講後の一段落した頃に、一人ひとりに対し人事部長がフィードバック面談を行い、プログラムの一環として取り入れている「多面評価診断」や、財務会計やマーケティングなどの「知識確認テスト」の結果も含む研修全般を通じた、今後のリーダーシップ発揮に関する意見交換とアドバイスを行っている。さらに、社長、人事担当役員、人事部長などが出席する「ねぎらいの会」を宴会のかたちで催し、雑談も交えながら研修の振り返りを行っている。平岩氏は、「あの修羅場をどのように感じたのか、どうすればよかったのかなどを受講者に伝えるなかで、学びと気づきが醸成され、行動変化にもつながっていくと思います」と期待する。
また、JCBのプログラムでは、社長をはじめとする役員層の講話に加えて、外部の経営経験者による講演会を盛り込み、普段とは違う価値観に触れることも重視している。背景には、「社員同士の仲が良く、社内の風通しも良く、情報共有がしやすい半面、異質のものには弱い面があるのは否めない」(平岩氏)という同社の組織風土がある。こうした弱点の克服のためにも、異なる価値観に触れることが重要という。

JCB2(右図:2014年度JCB様研修体系の一部※クリックして拡大ください)

トライ&エラーの繰り返しでプログラムを改善

明確な目標と強いこだわりをもってビジネスリーダー育成研修に取り組むJCBだが、「研修の成果を測定し、具体的に示すのは非常に難しい」と平岩氏は言う。というのも、リーダー人材育成のベースは日常業務の現場にあり、そこで長い時間をかけて顧客や上司、部下に育てられる、ということを重々わかっているからだ。つまり、「短期間の研修だけで、何かが大きく変わるとは思っていない」(平岩氏)のである。
では、研修に求めるものは何か。「研修とは非日常の演出であり、そこには日常業務のなかでは得られない刺激、普段は触れることのない価値観、立ち止まって自分を振り返る時間などが存在します。だからこそ気づきが生まれ、その気づきが本人の成長や業務の改善につながるのです。ですから、研修の成果とはすぐに目に見えるのではなく、じわじわと、年月をかけて効いてくるものだと思います」と平岩氏。気づきをきっかけに他者との関係が目に見えて向上するなどし、ハイパフォーマーとなった受講者も複数いると語る。
JCBIMG_0816 自らもこの研修の受講経験者である平岩氏自身、「自分の思考のクセを見直したり、組織を越えた影響力の発揮を意識したり、リーダーシップ行動の「自覚的な実践」には、日頃の意識と積み重ねが重要だと実感しました。部下を預かる責任、“人が最大の財産”といった言い古されたかに思える表現のもつ深い意味をあらためて感じる機会にも恵まれ、健全な意識で経営層をめざすことが大事だと気づきました」と振り返る。もちろん、人事部部長となったいま、この気づきは実践となって日々発揮されている。
今後、同様の研修プログラムを取り入れようとしている企業には、「参考事例はたくさんありますが、それぞれの企業にとって目指すことや課題は違うと思います。大事なのは、世の中のテンプレートを使いながらも、自社に活かすために工夫し、修正を加えていくことです。急いで結果だけを求めず、トライ&エラーを重ねながらプログラムを自社のものとしてつくりあげ、定着させていくというスタンスが必要だと実感しています」とアドバイスする。
JCBの課題としては、「継続から生まれる慣性」を挙げ、「同じプログラムを4年間実施していると、受講者の上司や経営陣への説明もしやすくなりますし、緊張感もやわらぎますが、課題が見えにくくなっている面もあるかもしれません。育成した人材を企業全体の力につなげていくためにも、地道に試行錯誤を重ねていかなければと思っています」と力強く語る。
(聞き手:日本能率協会 小関俊洋)