新事業成功・失敗要因の抽出|強みを活かす新事業開発:第1章 探索ガイドラインの設定(5)

公開日:2017/06/12 更新日:2023/09/14

1、これまでの新事業を振り返る

ユニークなアイデアや革新的な技術が見つかっても、すぐに事業化の検討に入るのではなく、これまで開発した新事業の成功要因・失敗要因を振り返ることが重要である。新事業の成否は外部環境の変化のみならず、企業体質や経営資源に起因する。各社の新事業の失敗背景を探ってみると、案外、過去も同じような事業を立ち上げて失敗し、その教訓が活かされていない。

新事業の成功・失敗要因の分析は、図Ⅵ-1に示すように、まず成功した事業、失敗した(上手くいかなかった)事業を選定する。失敗ではないが発売前に断念したテーマもピックアップする。大企業では複数の新事業開発テーマが検討され、開発が進むにつれて障害が大きくなり、立上げを断念したケースがある。立上げ前に断念した事業はあまり明るみになっていないため、忘れ去られたり封印されたりすることが多い。

図表Ⅵ-1
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成功事業、失敗事業を選定したら開発動機と成功・失敗の要因を探る。どのような背景でその事業に着手したのかが開発動機である。「なぜ、その事業を始めたのか」改めて考えると分からない事業がある。会社や部門の方針として始めた事業もあれば、誰かの思いつきや関係会社からの持込みといった事業もある。安易な開発動機は失敗につながりやすい。

成功・失敗の要因は、外的要因と内的要因に分けて探るのがポイントである。いずれも客観的に分析することに努める。筆者は、大企業の内的要因での失敗を多く見てきた。人や組織が多くなるにつれて利害関係が複雑になり、調整に手間がかかる。また、新事業が派閥の犠牲になり、反対勢力が潰してしまうこともある。こうした内部事情を一般社員が解明するには限界はあるが、自身が新事業を立ち上げる立場であれば、可能な限り経緯を把握しておくことは大切である。

成功・失敗要因分析を行ったら考察を行う。次に同じ轍を踏まないためにはどうすればよいか?事前に手を打てる策を講じなければならない。社内で新事業を立ち上げて成功に導いた経験者がいれば、その人にアドバイザーになってもらうのも良策である。

2、事業開発パターンと失敗要因

つぎに新事業開発のパターンと失敗要因を考えてみる。新事業はよくアンゾフの成長マトリックス(市場・顧客と製品・技術を現、新にそれぞれ区分し4象限にしたもの)が用いられるが、図表Ⅵ-2はそれをアレンジしたものである。

図表Ⅵ-2 開発パターンと失敗要因
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新事業はなんらか既存の枠組みを超える活動ではあるが、どの事業開発にも溝があり、その溝を克服できるかどうかで成否が分かれる。事業開発の方向として多いのは既存顧客に対して新たな技術やノウハウで新事業を起こすパターンだが、肝は新技術や新ノウハウを伴ったビジネスモデルに移行できるかどうかである。例えば「モノからコトへ」は業界限らず共通のキーフレーズで、ソリューションビジネスを新事業として推進する企業は多いが、モノ志向から脱却できないと失敗に終わる。

一方、既存の技術やノウハウを新顧客に展開するような新事業パターンはなかなか上手くいかない。富士フイルムが自社の保有技術で事業転換を果たした話が成功事例として取り上げられるが、そうした例はまれで、筆者の見聞きしたところ成功確率は相当低い。理由として、既存の保有資源を多少組み替えたところで画期的な発見はほとんど出てこないし、売り先がない中で資源を分析しても現実味がない。仮に新たな提案先が見つかったとして、既存の市場では強い技術であっても、新たな市場で技術優位に立てるとは限らない。したがってこのアプローチを選択する場合は、会社として危機感を持ち、相当な時間と工数を準備したうえで取り組まないといけない。

新顧客への新技術・ノウハウはM&Aなど外部資源の獲得を前提として進めるのが定石であるが、なかには自前主義にこだわり既存事業の延長で取り組んで失敗するケースがある。商品創出と市場創出の2つの溝があることに留意すべきである。既存事業からの連続的思考のままで進めてしまうのはご法度である。新事業の経験が浅い企業は、まず既存顧客に対する新事業に取り組み、徐々に市場を広げていくのが得策であろう。

関連プログラム

新事業開発・開発推進

著者

池田 裕一(いけだ ひろかず)
日本能率協会コンサルティング(JMAC)技術戦略センター チーフ・コンサルタント
JMA公開セミナー 新事業開発実践力養成コース/BtoBマーケティング基礎セミナー/
マーケティング分野オンラインセミナー講師。

機械販売会社の財務部門を経て、1990年株式会社 日本能率協会コンサルティングに入社。以降、一般企業を対象とした新商品・新規事業企画、新サービス開発、事業立上げなどのコンサルティング、研修、講演にあたる。

 

バックナンバー

序章
第1章 その1
第1章 その2
第1章 その3
第1章 その4