経営資源の確認|強みを活かす新事業開発:第1章 探索ガイドラインの設定(4)

公開日:2017/05/22 更新日:2023/09/14

1、自社の強みと新事業

「その新事業に自社の強みは活かされているか」社内の新事業提案で役員から必ず質問されるポイントである。会社の中期経営計画を見ても「自社の強みを活かして新事業を展開する」とだいたい書かれている。
しかし、社内の新事業検討の場を訪れると、この「強み」があいまいに議論されていることが多い。

議論があいまいになる理由は2つある。1つは、強みを測定する物差しがないため思い込みや感覚での議論になりがちで結論が出ない。もう1つは既存事業の強みが本当に新事業の強みになるのか?という点である。
後者は筆者の経験では既存事業の強みは新事業の強みにはならない。それぞれの分野において既存企業は専門的な技術やノウハウを日夜磨いているわけで、そこに新規参入しても追いつけない。平時から新事業に割くための技術蓄積やノウハウ習得を養っている企業はほぼないし、その余裕があれば既存事業の強化に経営資源を充てている。

しかし、新事業として参入余地はある。事業環境の変化や技術革新によって既存の企業ではキャッチアップできなくなる場面、特に非連続な環境変化によって市場が大きく変わる場面がある。たとえば国の政策変更によって環境規制が大きく変わり、既存の製品では対応できなくなるといった非連続な変化点である。こうした変化点に自社の強みが上手く刺さればビジネスチャンスとなる。

ただ、注意したいのは自社の強みだけでビジネスが成功するのではなく、あくまで、自社の強みは参入の切り口である。

2、技術資源分析

強み議論があいまいになる1つめの理由、主観的な議論に陥らない方法を論じてみる。主観的議論になりがちなのは、まず強みが目に見える形になっていないからである。
たとえば、技術面では「当社は設計が強い」「評価設備を持っている」など抽象的な強みを出し合って終わってしまう。事業戦略やマーケティングの研修でSWOT分析というフレームワークがあるが、S(Strength):強みで語られるのは、そうした抽象的表現である。

抽象的表現で終わらないためには自社の技術を俯瞰し、見える化することが必要となる。そのためのツールが技術資源分析である。
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技術資源分析は自社の製品やサービスを縦軸、自社の技術やノウハウを横軸にしたマトリックスである。

製品がどのような技術で構成されているか、該当するセルに印をつける。その技術をユニーク(オンリーワン、独自)な技術、他社より優れている(ノウハウが蓄積されているなど)技術、他社並みの技術、他社より劣る技術に区分する。他社との優劣は、製品それぞれに競合関係にある製品と比べて評価を行う。
1人の評価では偏りが出来るので複数人数、複数部門(開発の視点と営業の視点など)で相談しながら実施することが肝要である。

3、販売資源分析

つぎに自社の販売資源を分析する。新事業の成功例で多いのは、既存の顧客や販路を活かして新商品や新サービスを展開するケースである。逆に接点のない顧客や自社が有していない販路に商品・サービスを展開するケースは難易度が高い。
メーカーの新事業で苦労しているのは、自社技術の新用途を思いついても、そこにアプローチできる販売資源を有していないために売上が上がりにくいことである。

したがって、自社がどのような顧客を持っていて、どのような販路で商品・サービスを提供しているかを見ることで、強みが出せる顧客や販路を明確にする。特にシェアの高い製品市場、営業人員の多い製品市場は、顧客ニーズや将来需要に接する機会が多くなるため、情報源として他社より優位な立場に立つことができる。
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4、その他の資源分析と分析結果の活用

技術資源分析、販売資源分析以外に、バリューチェーン上の強みを掴むバリューチェーン分析、社内人材の専門性や取得資格を棚卸する人材資源分析、遊休土地や好立地を棚卸する土地資源分析などがある。

これら資源分析は時間と手間をかければキリがないが、あまり分析に手間をかけすぎてしまうと、分析だけでエネルギーを使い果たしてしまい息切れしてしまう。そうなると目的と手段が入れ替わってしまう。経営資源の分析は新事業探索ガイドラインを作る手段であるし、各種分析結果を見ているだけでは新事業は思いつかない。

1~2ヶ月以内で一覧表を作るぐらいの工数感覚を持って、資源の概観ができるぐらいで取り組むことが望ましい。

著者

池田 裕一(いけだ ひろかず)
日本能率協会コンサルティング(JMAC)技術戦略センター チーフ・コンサルタント
JMA公開セミナー 新事業開発実践力養成コース/BtoBマーケティング基礎セミナー/
マーケティング分野オンラインセミナー講師。

機械販売会社の財務部門を経て、1990年株式会社 日本能率協会コンサルティングに入社。以降、一般企業を対象とした新商品・新規事業企画、新サービス開発、事業立上げなどのコンサルティング、研修、講演にあたる。

 

バックナンバー

序章
第1章 その1
第1章 その2
第1章 その3