強みを活かす新事業開発 第1章 探索ガイドラインの設定 その2 参考企業ベンチマーキング

1、他社事例を研究する

他社事例の研究は、競合分析のように他社商品の売上・販売量などを調べるのではなく、他社がどのような事業革新を実践しているかを学ぶものである。自社内の情報だけで新事業を検討すると、ややもすればすぐに出来る商品、すぐに到達できる目標の範囲でやることを決めてしまう。そうではなく、どのような分野で各社が事業開発をしているか、それを学ぶことによって自社に刺激を与えるのである。したがって、研究対象は同業他社に限らず、異業種も含めて自社の革新に参考となる企業を抽出する。最近では業種を跨いだ新事業参入も多い。たとえば農業分野には製造業・サービス業さまざまな業種から参入しているので幅広く対象企業を探すことが大切である。また、製造業であればメーカーからサービスに軸足を移している企業、内需型企業であれば積極的に海外進出をしている企業が参考になる。

図表Ⅲ-1 他社事例研究

他社事例研究

情報収集はWeb情報、文献情報だけでなく、可能であれば関係者にヒアリングするなどして紙面に出ていない情報を得ていく。他社事例研究は図表Ⅲ-1に示す項目で情報を整理する。「参入している分野」は対象企業の新事業参入分野である。「活用資源」は、どのような経営資源を活用して、その分野に参入したかを調べる。分野だけ見ると「なぜ、その会社が?」という疑問が湧くが、経営資源を見ると納得がいく。たとえば本の卸をやっている企業が自社の遊休資産を活かして介護事業をはじめている。また自動車部品会社が自社のセンサー技術を活かしてハウス栽培の温湿度制御の分野に進出している。

化粧品の訪問販売を行っている企業は、その販路を活かして空気清浄機や羽毛ふとんの販売を行っている。資金という経営資源を活かして買収で新規分野に参入しているケースもある。経営資源を無視した新事業は上手くいかないし、逆に新事業で成功するには強い経営資源が不可欠であることが分かる。「参入の背景」は新事業開発の目的である。新事業の目的の多くは「新たな収益の獲得」であるが、それ以外に「雇用の確保」「既存事業の販売促進」「企業のイメージアップ」などがある。なぜその企業が当該分野に参入しているのか、その理由を明らかにするのである。たとえば「現事業の販売促進」が目的であれば、新事業で儲からなくても既存事業に相乗効果が出ればよいし、「企業のイメージアップ」が目的であれば広告宣伝的な位置づけになる。

他社事例を研究することによって、自社の参入領域、活用経営資源を再認識する。

2、同業他社参入マップ

同業他社の参入動向を把握する目的は、自社と同じような事業特性を持っている企業がどの領域では成功し、どの領域では失敗するかを見ることである。「成功の教訓は近くの他社から」と言われており、余りにもかけ離れた企業の成功事例を見ても参考にならない。

それぞれの業界には独自の事業特性がある。たとえば装置型産業では製品・事業のライフサイクルが長く、開発に10年以上の歳月をかけて10年以上で投資回収するビジネスモデルがある。そうした事業特性を持った企業が、ゲームコンテンツなどライフサイクルの短い産業に進出してもなかなか上手くいかない。意思決定のスピードや業務のスピードが違いすぎるからである。同業他社の成功・失敗事例から自社が参入する上での教訓や成功・失敗の岐路が見えてくる。例として新事業で家電の空調領域に入った自動車部品の会社があった。しかし、その家電の領域はすでに大手家電メーカーがしのぎを削っており自動車部品会社とは開発プロセスや開発サイクルが異なっていた。また、家電量販店からは、そこまで性能は要らないので価格を安くしてほしいといったニーズが出てくる。デザインやマーケティングも求められ、結果、その自動車部品会社は失敗に終わった。一方、別の自動車部品会社はプラントなど大きな工場の空調に参入したが、今度は重工業メーカーが全体の制御システムや耐久性で参入障壁を作っており失敗した。結果、参入余地があったのが店舗など業務用領域であった。店舗用は開発サイクルが自社の事業特性に近く、自動車部品の技術力を活かしやすい領域であった。

3、トップ企業からのKFS抽出

もう1つ参考企業のベンチマークとして必要なのが、これから参入しようとする分野のトップ企業からのKFS抽出である。KFSとは「KEY FACTOR OF SUCCESS」の略で事業成功の鍵の意味である。新事業の場合、既存事業とKFSが異なる場合が多く、KFSを押さえずに事業に失敗するケースは多々見られる。たとえば鉄道事業のKFSは安全輸送や正確なオペレーションだが、鉄道事業がエキナカビジネスに参入する場合、KFSが異なる。エキナカビジネスで惣菜店を開業する場合、惣菜店のKFSは「おいしさ」「ローコストオペレーション」とともに「ロス率を低く抑える」ことが重要となる。惣菜は基本的に日持ちがしないため当日中に売り切らないといけないからである。

こうした参入分野のKFSを知るには、その分野のトップ企業を研究するのが重要である。その分野のトップ企業はKFSを押さえているからこそトップだからである。参入分野のKFSを的確に押さえることで、自社が参入する際の課題が明確となる。

図表Ⅲ-2 トップ企業からのKFS

トップ企業からのKFS

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